──樹里も芳江さんも、お嬢様育ちなんですよね。
喜多 苦労したことのない人って、貧乏が怖くて、嫌いなんですよ。私の友人にもいますが、一緒にコンサートに行った後に、北朝鮮拉致被害者の写真展を近くでやっていたので誘ってみたら、「絶対いや」と言うんです。なんで楽しい思いをした後に、暗い気分にならなきゃいけないの、という。
──しかし、苦労を一生避けるってできるのでしょうか。できたとして、幸せといえるのか。
喜多 いや、幸せじゃないんですよ。だから自分よりちょっと下の人をみつけて、悪口ばかり言っている。
──対照的に、ヒロインのリッちゃんは、お金にも家族にも苦労させられどおしだけれど、幸せそうですね。若いころは目立たぬ容姿だったのに、年を経るごとに美しくなってきた女性として描かれています。
喜多 家族を養い続けてきた彼女には、四十代も後半になるまで「恋愛」という贅沢は許されていなかったんですね。四十七歳になって初めて、男の人を好きになることが出来る。
──男性経験は自分のほうが上、と自負する樹里が、はりきって恋の手伝いをします。
喜多 ところがうまくいきはじめると、樹里は面白くなくなってくる(笑)。
──大好きな伯母さんが男に奪われてしまう、という嫉妬ですよね。樹里の母親は、樹里と同じく苦労知らずのお調子者で、リッちゃんと樹里のほうが母子みたいです。喜多さんの長篇前二作では、母親というのは本当に冷たい、または疎遠な存在として出てきますが、『秋から、はじまる』ではリッちゃんに理想の母親像が託されているのではないでしょうか。
喜多 亡き母のイメージを投影しているのかもしれません。
──このお話の結末は、意外というか、好き嫌いが分かれる部分かもしれませんね。
喜多 ラストは最初から決まっていたんです
──今あたためている作品の構想はあるのですか。
喜多 ライフワークとして、ある実在の尼僧の生涯を描きたいと思っています。五十歳も近くなって、書く仕事ができるようになったことは、とても幸福なことだと感謝しています。
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