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徹頭徹尾、女子による女子のためのノワール

徹頭徹尾、女子による女子のためのノワール

文:高山 真由美

『ガール・セヴン』 (ハンナ・ジェイミスン 著/高山真由美 訳)

出典 : #文春文庫
ジャンル : #エンタメ・ミステリ

『ガール・セヴン』 (ハンナ・ジェイミスン 著/高山真由美 訳)

“スピードをキメた天使のように書く”とイギリスのQ誌に評された若き新人作家ハンナ・ジェイミスン。第一作 Something You Are の草稿を書きあげたのは十七歳のときで、これが二十二歳のときに刊行され、二〇一三年に英国推理作家協会(CWA)のジョン・クリーシー・ダガー(新人賞)の候補となった。本書『ガール・セヴン』はそのジェイミスンの第二作である。

 

 主人公の清美(キヨミ)は日英ハーフの二十一歳、セヴンという通り名で、ロンドンのナイトクラブ〈アンダーグラウンド〉で働いている。三年まえ、何者かに家族全員を惨殺されて以来、生活はどん底で、なんとかそこから抜けだして東京に帰りたいと思っている。

 あるときセヴンは、〈アンダーグラウンド〉に客としてやってきたマーク・チェスターという殺し屋と知りあう。マークと店の経営者のノエルは旧知の仲で、マークはセヴンの家族の未解決事件についてあらかじめノエルから聞いており、興味があるので調べてみたいという。家族のことはただ忘れたいと思い、考えても涙すら出なかったセヴンも、やがてマークとともに過去を掘り起こすことになる。

 一方、これと前後してやはり店にやってきたロシア人の二人組がいるのだが、つまらない意地を張ったことがきっかけとなり、セヴンはこのロシア人たちの計画に巻きこまれていく。

 セヴンの家族を殺した犯人は見つかるのか? このロシア人たちは何者なのか? セヴンはどうなるのか? これがセヴンの過去の回想をはさみながら語られる。

 

 文章はクリスプで即物的だ。それでいて何気ない描写が洒落ている。主人公の眼に映るものを描いて一歩奥をにおわせる。

 チャンドラーやエルロイ、ランキンを引き合いに出す評を見かけたが、訳者が初読時に連想したのはジム・トンプスンとボストン・テランだった。

 トンプスンの描く主人公たちを、矢口誠氏は「つねに現状維持に失敗して破滅し、転落していく」と評している(『ジム・トンプスン最強読本』扶桑社)が、本書でマークとの出会いから復讐心に火のついたセヴンが破滅的な行動に走るさまは、まさにそうした主人公たちを思わせる。

 一方、テラン(とくに『音もなく少女は』)を思わせるのは、テキストの奥に見え隠れする感情のうねりである。セヴンを表わすキーワードには〈退屈〉〈嫌悪の情を隠せない〉〈鬱屈した怒り〉などがあるが、とくにこの三つめの〈怒り〉が圧倒的な力でセヴンを突き動かしている箇所がいくつかある。このあたり、やはり現代を生きる〈女子〉である著者のジェイミスンが、女性であるがゆえに世界から被る負のエネルギーをそのままぶつけ返しているようにも見える書きぶりなのだ。

 ちなみにジェイミスンは女子(girl)という言葉を、「不自由を強いられる“わたしたち”」という意味を含めて使っているふしがある。一見、対をなす語のように思えるboy は、大きくてもティーンエイジャーまでにしか使っていない。〈女子〉の“向こう側”にいるのはman であり、guy である。ついでながら、作中でときおりセヴンがデイジーとくりひろげる歯に衣着せぬ女子トークはなかなか楽しい。著者本人も「女性キャラクターの“声”を見つけるのは、男性キャラクターの場合よりむずかしい、ただしデイジーを描くのはものすごく楽しかった」と語っている。

 そんなに目新しいたぐいの話ではないかもしれないが、とにかく読まされるのは、文章のせいもあるのだろうし、ちょっとしたエピソードや情報の出し方がうまいからでもある。そして何より女性本位の視点が徹底している。女にも暴力衝動があるという単純な事実を、アクションとしてでなく、キャラクターの内面に端を発する切実な欲求としてここまでストレートに描いたものは珍しいのではないだろうか。本書は徹頭徹尾、女子が女子を描いたノワールだ。

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ガール・セヴン
ハンナ・ジェイミスン・著/高山真由美・訳

定価:本体910円+税 発売日:2016年08月04日

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