小説を書くにはいくつか必要な条件がある。
脚本家はその点では最初から有利なのだ。まず、だらだらと机にむかう忍耐力が最初から備わっている。登場人物のキャラクターを明確につくれる。脇役まで記憶に残るのがいい脚本の条件だ。当然、会話を書くのは得意だろう(下手な人もいるけど)。プロットの構成力では、脚本家はもしかしたら小説家より巧いかもしれない。きちんとハコを組んでいる作家は、ほとんどいないはずだ(小説家はあまり緻密な頭脳はもっていない)。さて残るのは地の文章と、その描写力くらいだ。それは脚本にはないものなので、試してみるまではわからない。
宮藤さんの場合、最後の描写力以外は文句なしだった。
しかも、落語家がフラと呼ぶ、受け手の注目を嫌でも集める抜群の華やかさとセンスがある。
今では、あまり人に小説でも書きなよとは簡単に勧めないけれど、宮藤さんの場合、ぼくの勧誘は間違いなかったと思う。
それは痛快な青春小説である『きみ白(下駄)』を読めばよくわかる。
ここにはデビュー作特有のキラメキが満ちあふれているのだ。
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