飴村行のデビュー作を私は2度読んだ。それも1日のうちに2回である。
第15回日本ホラー小説大賞長編賞を受賞した『粘膜人間』(角川ホラー文庫)がその作品だ。新人のデビュー作を続けて読みたくなることなど普通はない。それほどまでに禍々しく、極彩色の魅力に溢れた作品なのだった。同作は、思想弾圧の進んだ軍国主義の日本を舞台にした内容で、飴村は一躍ホラー・ファンからの注目を集めた。アングラ映画時代の若松孝二を思わせる作風は、とても平成の御世に書かれたものとは思えないものであった(私は当時の飴村を評して「猟銃を持って屋上に上がりそうな男」と書いたことがある)。
〈粘膜シリーズ〉には人を興奮させるアドレナリンの快い匂いがしたが、危なすぎて残念ながら一般受けはしなさそうだ、マニアの遊び道具になるかもしれない、との危惧も残った。しかし、その心配を杞憂としてくれそうな作品を彼は書いたのである。今回刊行される『路地裏のヒミコ』がそれだ。これは飴村の進化を告げる作品である。
本書は2作を収録した中篇集だが、表題作はこんな話である。
漫画家志望といいながら、実はモラトリアム期間を引き延ばすことばかりに躍起となっている中田大輝は、仁井原茂夫から作品の題材となりそうな話を紹介される。茂夫は大学時代からの知り合いで、少々押し付けがましいところはあるものの、大輝にとっては唯一の親友だ(飴村作品にはこの手の人物が水先案内人のような役割で頻繁に登場する)。茂夫の話す「ヒミコのオッサン」こと円山文吉の物語が本篇の核となる。
円山は東京都新宿区のとある住宅街に住んでいた。日がな一日ぶらぶらと歩き回るだけの男を周囲の人々は奇人として敬遠していたが、ふとしたきっかけから彼に未来予知の能力があることが判明し、たちまちカルトヒーローとして持ち上げるようになった。だが、それだけの有名人にもかかわらず、円山の後半生は謎に包まれている。彼を知る医師・初芝に当時の話を聞きながら、茂夫と大輝は謎の予言者の人生に近づいていく。
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『赤毛のアン論』松本侑子・著
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