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ベッキーさんが、われわれに託すもの

ベッキーさんが、われわれに託すもの

佳多山 大地

『鷺と雪』 (北村薫 著)

出典 : #本の話
ジャンル : #エンタメ・ミステリ

北村  どこへ着地するかってことは、当然ね。有名な話ですけれど、吉川英治は、司馬江漢の随筆『春波楼筆記』の中のほんの一節からあの壮大な『鳴門秘帖』の物語を作り上げました。わたしの場合、このシリーズの原動力となったのは、松本清張の『昭和史発掘』の中の、ある一節でした(聞き手註:『鷺と雪』をお読みになってから、『昭和史発掘』の二・二六事件「襲撃」の章、第五節を参照されたし)。その一節に書かれてあることは、要するに、非日常の中に日常が食い入ってくるさま、逆の見方をすれば、日常が非日常を垣間見る瞬間でした。

──ラストで、語り手の「わたし」は風邪で朦朧(もうろう)としながらも、きわめて日常的なことをしようとして非日常の只中を覗くことになる……。

北村  そうなるとは思わなかったでしょう? でも、百万にひとつの偶然って起こるんですよ(笑)。

──鳥のブッポウソウをめぐる伏線も、通奏低音のように響いています。NHKがブッポウソウの鳴き声をラジオ中継したことで、その声の主がじつはフクロウ目のコノハズクだとわかるのも実際にあの頃に話題となったニュースですね。このことも、「歴史」を知っていると象徴的に思えます。声だけを聞いても、なかなか正体は判然としなかったブッポウソウ。間もなく日本人は、大本営発表の声だけを聞いて、戦争の実態はよくわからない状況におかれることになる……。

北村  昭和十年の夏、帝都の夜に、深山幽谷でなければ鳴くはずのないブッポウソウが実際に鳴いて、空を渡った。ありえないことが起こるというのは、非常に不安な感じがしますよね。 

鷺と雪
北村 薫・著

定価:1470円(税込)

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