──昭和ひと桁(けた)の頃、浅草などを中心にいろいろとナントカ団なるものが組織されていたんですね。
北村 そう。猫団に白骨団、それに、桃色の秘密団、なんていうのも。二・二六事件の年の「少年倶楽部」一月号から、江戸川乱歩が『怪人二十面相』の連載を始めるんだね。だから、その話の中で乱歩が少年探偵団を作るのも、当時こんなに不良少年団があったんだから無理もない。小学生なんかでも、遊び半分にナントカ団を組んでたらしいからね。ともあれ、今度の本は、三篇のうち最初と最後がやや重苦しい話なので、真ん中に可愛い話をおきたかった。
──そして、いよいよ最終話「鷺と雪」で、ファンから愛されたこのシリーズも大団円。
北村 三冊分の伏線を片付けてゆく作業をどんどんと行う。
──「わたし」の級友がカメラで撮った写真に、すでに台湾に行っているはずの男性が写り込み、すわドッペルゲンガーかと騒がれるオカルティックな謎が扱われています。
北村 この話の中では、当時の女子学習院の修学旅行の様子を描き込みました。取材の過程で、実際に当時の旅行中の写真なんかを見ると、ほとんど全員がカメラを提げているんだね。それはやっぱり、女子学習院ならではの光景かな。
──僕は、じつは母校が学習院大学です。
北村 そうなんですってね。ごきげんよう(笑)。
──男子学生は言いませんよ。いわゆる女子部から上がってきた子たちは、僕が学生だった一九九〇年代前半も「ごきげんよう」と挨拶をしてましたけれど。受験に合格して、大阪から上京したハグレ者の身としては、なるほど住む世界の違う人たちがいるとカルチャーショックを受けました(笑)。 ところで、この最終話の中では、能の名人、梅若万三郎が、いつもなら被らないはずの面をつけて鷺の役を演じたことが描かれています。これも当時、本当にあったことだとか。
北村 非常に異例なことです。今もそうなんですけれど、『鷺』のシテは六十歳を過ぎたら直面(ひためん/聞き手註:素顔)で演じるのが常です。当時の能楽の雑誌にも、なんで万三郎はあんなことをしたのかしら、と書かれていました。『鷺』の中で勅命によって捕らえられる鷺と、暮鳥の詩に出てくる「騒擾ゆき」という言葉が、暗示的に響き合う。しかも、人里に降りることさえ稀なブッポウソウが帝都の夜に鳴いたあとでね。調べて書いているうちに、何かこう、パズルの細片がぴしぴしと嵌(は)め込まれてゆくがごとく様々なことが起きていたのが不思議です。歴史が、何事か語っているような。
──―二・二六事件の帰趨(きすう)がわからない読者は、若者でもいないでしょう。
北村 いや、わからないかもしれない(笑)。本を読む人は、多少は知っているかな。『鷺と雪』を読んだあとに、そこから調べてもらえばいいでしょうね。
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