書評

ヨタ話の扇動にのらないための絶好の書

文: 山形 浩生 (『環境危機をあおってはいけない』訳者)

『「食糧危機」をあおってはいけない』 (川島博之 著)

  本書には、さっき挙げた各種の食糧危機論がほとんどすべて採りあげられ、それがなぜまちがっているかがきちんと解説されている。いちばん簡単な話として、世界の人口はまもなく減少に向かうので、人口爆発で食糧危機なんてのはウソだ。中国やインドの生活水準が上がっても、みんながアメリカみたいに肉を食うわけじゃない。収穫量はまだまだ上がる。備蓄減少はむしろ輸送や生産の余力が増えただけ等々。わかってしまえば当然の話が淡々と書いてあるだけなのだけれど、その当然の話を多くの人が理解していない現状で、こうした本はとても貴重なものだ。どの議論も、きちんとしたデータに裏付けられた明快な説明で構成されており、この分野に詳しくない人でも簡単に理解できるものばかり。

   こうした話を多くの人が理解するのはとても重要なことだ。というのも、食糧に関する人々の反応は、実は頭にきわめて強く支配されているからだ。多くの人は、食べ物は肉体的なものだと思っている。頭じゃなくて舌と身体の問題だ、と。でもそれはウソだ。いまぼくはラオスにいて、コオロギやイヌやカエルを喰っている。それを喰えない同僚もいるのだけれど、おもしろいことにその同僚も、知らなければイヌやカエルを平気で喰える。「おい、それはイヌだよ」と指摘した瞬間に、かれはそれが食えなくなってしまう。頭の中の知識や情報が、食物に対するかれの行動を決定的に左右している。人々がインチキな食糧危機情報に派手に反応するのも、そうした情報処理の問題だ。変な情報を頭に入れないことで、みんな極端な反応を避けられるようになるはずなのだ。

 

   ごく最近でも、ちょうど一年前に食糧価格が高騰し、さっき挙げたあらゆる議論がずらりと勢揃いしていたのを思い出そう。いまや同時期に高騰していた石油価格と同様に、食糧価格も完全にもとに戻ってしまった。結局、かれらの主張は何一つあたっていなかったわけだ。でも食糧危機を騒ぎ立てていた評論家やマスコミは知らん顔だ。何も変わっていない。今後もまだまだ食糧危機談義は、UFO話と同じように何度も蒸し返されることだろう。だが、次回までには国民も少しは知恵をつけておくべきじゃないか。食糧危機話がどれもUFO目撃談と同じ、無内容なヨタ話だというのを理解しておこう。本書はあらゆる人にそれを可能にしてくれる、目からウロコの真の啓蒙書なのだ。

「食糧危機」をあおってはいけない
川島 博之・著

定価:1150円(税込)

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