──他の作家が書く短篇ではどんなものがお好きですか。
山田 現代の作家の方のでは宮本輝さんの「五千回の生死」や「真夏の犬」なんかは、短篇小説の粋だと思います。それから、田辺聖子さんの「恋の棺」や「ジョゼと虎と魚たち」のような、時として他愛ないものを繊細にすくい上げるものも好き。外国のものでは、J・ボールドウィンの「出会いの前夜」が黒人音楽にはまるきっかけになった特別な作品集です。
──『タイニーストーリーズ』は読む人ごとに一番好きな作品が違う短篇集だと思います。ご自身は、特に気に入っているもの、会心の作だというものはありますか。
山田 書いた時にはどれも会心の作だと思っているんだけど、その中でも「GIと遊んだ話」の五篇は、絶対書いておきたかった短篇です。私が大好きだった湾岸戦争以前のアメリカへの郷愁を込めて、「こういう人たちがいた」という記録のつもりで書いた。「ベッドタイムアイズ」からずっとアメリカの軍人のことを書いてきた中で、まだ書き残していたものに誠意をもって向かい合った、スピンオフみたいな感じです。
「クリトリスにバターを」誕生秘話
──全篇バラバラな中で、「GIと遊んだ話」だけが、同じタイトルで(一)から(五)まであって、この本のトーンを作っていますね。
山田 私ほどGIに詳しい、小説用の字の書ける女はいないから(笑)。アメリカ軍人と付き合っている日本人の女の子はたくさんいても、その視点から戦争を書いた作家って、一人もいないでしょう。自分の愛した人が戦争に駆り出される恐怖、生理的な嫌悪感を言葉にできる人は私以外にいない。そういう自負もありました。
──「GI……」は日本とアメリカについての小説であると同時に、日本にこれまでないタイプの反戦小説だと思います。
山田 あくまで民間レベルの、“プチ反戦”ですけどね。湾岸戦争が起こった時、日本の作家や評論家が戦争に反対する会を作って広告を出したりしたでしょう。私はそれに一切加わらなかった。そのグループには実際に自分の家族や恋人が戦場に送られた人がいるの? と思っていたから。そういうインテリの人たちによる反戦運動には反撥していたので、それに対するアンチテーゼでもある。この短篇は、私なりの『本当の戦争の話をしよう』(T・オブライエン)なんです。
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