野口さんが「救出作戦」に従事していた二〇〇三年、私自身、新聞社の特派員として北京で勤務しており、脱北者問題を取材していた。
二〇〇二年以降、中国・北京にあるスペイン大使館や、韓国大使館、日本人学校に、門が開いた一瞬のスキを突いたり、壁にはしごをかけて北朝鮮の人たちが逃げ込んだ。亡命を求めるためだった。
駆け込みがあると私たちも、現場に駆けつけた。慌てたのだろう。建物を取り囲む鉄条網に、靴や服の一部が引っかかったまま残っていたこともあった。
北朝鮮と同じ社会主義国である東ドイツの崩壊は、住民のポーランドへの大量脱出がきっかけとなった。
中国は北朝鮮と一千三百キロの長い国境を接している。難民が押し寄せればとても防ぎ切れず、北朝鮮は内部から崩壊する危険性がある。中国と韓国を分ける「緩衝地帯」である北朝鮮が消滅すれば、在韓米軍の部隊が中国国境付近に配備されることも予想される。
中国にとって「悪夢」に近い事態に違いない。このため中国政府は、国内の外国公館の周辺に、高い柵を二重、三重に張り、脱北者の摘発を徹底した。
盗聴、尾行だけでなく、協力者を脱北者グループに潜り込ませて、関係者を一網打尽にすることもある。もちろん人権無視の批判などお構いなしだ。北朝鮮も金正恩体制になってから、脱北行為への監視をいっそう厳しくしているという。
それでも「自由を求める過酷な旅」は後を絶たない。さまざまなルートを経て韓国に入国した脱北者は約二万五千人、日本にも二百人余りが暮らしている。
一方で、新たな動きも出てきた。
国連に、北朝鮮の人権侵害を調べる調査委員会が設置され、韓国や日本で拉致被害者や脱北者への聞き取り調査を始めたのだ。
人権侵害の実例が、人権委を通じて国際社会に公表されれば、北朝鮮や中国への大きな圧力になることだろう。
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