書評

『夜を守る』解説

文: 永江 朗 (ライター)

『夜を守る』(石田衣良 著)

 びっくりしちゃったよ、アメ横がこんなかっこいい青春ミステリーの舞台になるなんて。そりゃあ、同じく石田衣良さんの『池袋ウエストゲートパーク』、通称IWGPシリーズの池袋西口だって、ピッカピカの若者の街っていうわけじゃないさ。でもアメ横とはね。でもよく考えると、上野のアメ横って、東京の中でも独特の場所なんだ。

 東京に住んでいない人、そして東京に住んでいるけどアメ横に行ったことがないという人のために、ちょっと説明するね。

 JR上野駅のしのばず口を出て、目の前の中央通りを渡ったところから、JR御徒町駅まで続く商店街がアメ横。ただし、普通の商店街じゃない。四〇〇メートルの距離に四〇〇店舗。狭い店がガード下に隙間なく並んでいる。中は迷路みたいな感じで、商品に見とれていると方向感覚を失い、ちょっとパニックになることもある。

 アメ横は正式にはアメヤ横丁という。できたのは戦後のことだ。米軍による空襲で東京のあちこちが焼け野原になったけど、上野もひどいことになった。戦争が終わり、焼け野原に闇市ができた。やがてそれが整備されてアメ横になった。いまでもアメ横のにぎわいには、闇市的なにおいが残っている。

 はじめぼくは、アメ横のアメはアメリカのアメだと思っていた。七〇年代の後半、ぼくが学生だったころ、アメ横にはアメリカ製品がたくさんあったんだ。米軍放出品を扱う店もたくさんあった。ぼくはアメ横でリーバイスの501やリーのネルシャツを買ったことがある。同じころ、国会議員の事務所でアルバイトをしていて、アメ横に買い物に行かされたこともある。買ったのはシェーファーだったかクロスだったかのボールペン。それも大量に。代議士の地元の支援者にお土産にするためだ。アメリカ製品が安い街、アメ横。

 でもアメ横は、アメリカ横丁じゃなくてアメヤ横丁の略なんだ。アメヤは「飴屋」のことで、戦後の闇市だったころ、ここには飴屋、つまり菓子店がたくさんあったからこう名づけられたという。いまも御徒町駅の近くには激安の菓子店があるね。

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夜を守る
石田衣良・著

定価:600円+税 発売日:2014年02月07日

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