- 2016.05.03
- 特集
江戸の実話が平成日本を救う!映画「殿、利息でござる」プロデューサーが明かす映画製作秘話
文:池田 史嗣 (松竹(株) 映像本部映像企画部 映画企画室プロデューサー)
『無私の日本人』 (磯田道史 著)
ジャンル :
#ノンフィクション
磯田道史先生とお仕事させていただくのは、これが二度目なんです。2010年に『武士の家計簿』(森田芳光監督)という映画を手がけまして、これがありがたいことに、従来の時代劇ファンだけでなく、女性層にも広く支持していただけた。同じく磯田先生の原作ですから、『無私の日本人』もきっと面白い映画にできる、という確信はありました。
『武士の家計簿』は、幕末期に加賀藩の御算用者(現在の会計係)が、そろばんの腕ひとつで家族を守るお話でした。『殿、利息でござる!』は江戸中期の仙台藩の小さな宿場町が舞台で、貧乏庶民が殿様にお金を貸し、利息を取って町を救うというストーリー。共通するのは、チャンバラなどの派手なシーンがなく、有名な歴史上の英雄も登場しないということでしょうか。生活に即した現代的なテーマでわかりやすい。加えて実話という圧倒的なリアリティーがある。かつてはなかった新しい時代劇のスタイルです。
撮影当日まで秘密だった、殿のキャスト
簡単なあらすじを申し上げますと、藩の重い年貢により困窮する穀田屋十三郎(阿部サダヲ)ら庶民が、逆転の発想で知恵と無私の精神をもって大金を集め、藩に貸付け利息を取って町を救うというお話。伊達の殿様役はフィギュアスケート世界王者の羽生結弦さんが演じてくださいました。もちろん映画初出演ですが、故郷仙台の役に立つならとオファーを受けてくださったのです。現れた瞬間にこの人は別格だという感じを出すのに、これ以上のキャスティングはありません。殿様らしく実に堂々とした見事な演技でした。
実は、羽生さんの出演は撮影当日まで他のキャストにも明かしていなかったのです。江戸時代に庶民が殿様に直接会うなど有り得ませんが、伊達の殿様は吉岡宿の町人たちに会ったということが、記録に残されていました。そこで、目の前にいきなりお殿様が現れた驚愕をリアルに表現するために、現場リハーサルのみでいきなり本番芝居をしてもらったわけです。阿部サダヲさんや他の役者さんたちは素の驚きも混じってか、羽生さんに見とれてしまい、頭が高い!と所作指導の先生に注意を受けていました(笑)。
もう一つ撮影のこぼれ話を。磯田先生は本作にカメオ出演しています。郡奉行役を演じ、スクリーンデビューを果たされました。偶然にも磯田先生のご先祖は代々郡奉行だったとのことで、並々ならぬ思いで撮影に臨まれたそうです。貫禄を出すために5キロの増量に成功、撮影の数日前から草履を履いて生活するというデ・ニーロ風アプローチ(!)の役作りを実践なさったとか(笑)。本番は撮影の独特な雰囲気で緊張されながらも、現場を楽しまれていました。
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