- 2016.05.03
- 特集
江戸の実話が平成日本を救う!映画「殿、利息でござる」プロデューサーが明かす映画製作秘話
文:池田 史嗣 (松竹(株) 映像本部映像企画部 映画企画室プロデューサー)
『無私の日本人』 (磯田道史 著)
ジャンル :
#ノンフィクション
絶叫で演説を始めた著者の真意
中村義洋監督は、『白ゆき姫殺人事件』『予告犯』『残穢【ざんえ】-住んではいけない部屋-』と次々と話題作の映画化を成功させ、今、最も勢いのある監督の一人です。原作の本質を掴み取ることに長けており、多くの作家から絶大な信頼を得ていますが、なんといっても脚本の構成力が秀逸です。今作でも磯田先生から“天才”と評されていました。これだけの数の主演級キャストを勢揃いさせ、且つ全員にしっかり見せ場があるというのはすごいことですよ。“手練”という言葉がこれほど似合う監督はいないのではと思います。それから本作にはいたるところに中村監督ならではの遊びもあり、必殺シリーズや川島雄三監督の名作『幕末太陽傳』へのオマージュが散りばめられているなど、時代劇ファンにもたまらない一作になりました。
磯田さんが『武士の家計簿』を出版されてから10年以上の月日が流れました。その間、この国を取り巻く環境はまた随分と変わっています。5年前には震災もあった。詳しくは文庫『無私の日本人』のあとがきに譲りますが、磯田さんご自身もその間にお子さんが生まれ、今のこの国のありようから子どもたちの未来を憂えるようになり、そこで先人たちの生き様を子どもたちに伝えたいと強く思ったそうです。「穀田屋十三郎」は江戸時代の無名の庶民たちの“濁ったものを少しでも清らかにしよう”という尊い精神が結実した、嘘のような本当の話です。それも自分たちが成したことを人に伝えてはならぬという、子々孫々にまで課せられた「つつしみの掟」によって封印されてきた、まさに「無私の日本人」たちの奇跡と感動の歴史秘話です。「こんなすごい人がいた」ということを今こそ人々に伝えなくてはという磯田さんの思いに、中村監督が強く共鳴して企画がはじまりました。中村監督と磯田先生、お二人は奇しくも同い年(45歳)でお子さんの年齢もほぼ同じ(ちなみに主演の阿部サダヲさんも同世代!)。加えて製作サイドとしては、この作品は東北で作って東北から発信するということに意味があると考えました。そこで本作は宮城を拠点にする東日本放送さんとの共同製作のもと、弊社がいつも時代劇で使う京都の撮影所ではなく、山形県庄内のオープンセットをベースに撮影したわけです。
実は初号試写(製作関係者間で行われる最初の試写)の直後、ちょっとした“事件”が発生。試写を観終えて号泣していた磯田さんが突然、ロビーで絶叫に近い大声で演説を始めたのです。試写後に原作者が演説するなんて聞いたことがありません。最初は役者さんを含めた関係者が何事かと驚きましたが、作品を絶賛する先生の心のこもった演説を聞くうちに皆感動して、中村監督も少し涙ぐんでいました。原作者にこんなにも喜んでもらえたことは本当にプロデューサー冥利に尽きます。だからこそ、原作と映画を一人でも多くの方に届けたいですね。
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