別冊文藝春秋

『セルロイド』葉真中顕――立ち読み

文: 葉真中 顕

電子版15号

「別冊文藝春秋 電子版15号」(文藝春秋 編)

 四月六日木曜日、午前零時二十八分。

 会議室の奥には、テレビスタンドが設置され、48型の液晶テレビが乗っている。それと向かい合うようにして、長机を六つ並べた島がつくられており、その上には、二リットルサイズのペットボトルが数本と、たくさんの紙コップ、数種類のスナック菓子の袋が並んでいる。

 ラストシーンでリンカが口ずさんでいた歌は、そのままエンディングソングにつながり、液晶テレビの画面には、エンドロールが流れる。

 その一番最後に、『監督 伊藤七瀬』と私の名前が映し出されると同時に、部屋に集まったおよそ二十名は、一斉に拍手を始めた。

 今日は、私が監督した深夜アニメ『CAGE』の放送開始日。それを記念し、放送時間に合わせて、アニメ制作会社『スタジオ・アッシュ』に、スタッフと関係者を集め、上映会を行うことになった次第だ。

「うん、素晴らしかった」

 ひときわ大きく手を叩きながら、満面の笑みを浮かべるのは、ここ『スタジオ・アッシュ』の代表取締役社長である灰原孝(はいばらたかし)。灰原さんが社長だから「アッシュ(灰)」というわけ。彼は今回の『CAGE』ではプロデューサーも務めている。

「改めて見るとやっぱいいよな。こう、学園の静謐な緊張感ていうの」「そうそう。なんていうか、一話目から、すごい名作感ありますよね」「俺、この作品参加できて本当によかったわ」スタッフたちが口々にそんなことを言ってくれる。

「伊藤(いとう)監督、見てくださいよ。ツイッターでも絶賛の嵐ですよ。ほらこの人なんて『セブン様の新作、神』だって」

 隣に座っていたキャラクターデザインを手がけた熊さんこと熊田道明(くまだみちあき)が、スマートフォンの画面をこちらに向けて、リアルタイムでつぶやかれているネット上の感想を見せるなどという、余計なことをしてくれる。

 ちなみに「セブン様」というのは、ネット上での私のニックネームだ。誰が最初に呼び出したのか知らないが、一部で定着してしまっている。はっきり言ってクソダサイと思うし、まったく気に入ってないけれど、ネットの向こうで勝手にそう呼ぶ人がいるのはどうしようもない。

「ちょっと、やめてよ。そんなの見せなくていいから」

 と、言いつつも、私の目は画面に釘付けになってしまう。そこに表示されている〈#ANIME_CAGE〉のタイムラインは、本当に賞賛の声で溢れているようだ。

 よし。ちゃんと、視聴者にも伝わっている。

 よいものをつくれたという、この感触は間違いじゃなかったんだ。

 私は内心、胸をなで下ろしていた。

別冊文藝春秋からうまれた本

別冊文藝春秋 電子版15号文藝春秋・編

発売日:2017年08月18日


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