別冊文藝春秋

『セルロイド』葉真中顕――立ち読み

文: 葉真中 顕

電子版15号

「別冊文藝春秋 電子版15号」(文藝春秋 編)

 正直、喜びよりも安堵の方が大きい。

 アニメ監督としてデビューしたのが、二十七のときだったから、あれからかれこれ十二年。最初所属していたアニメスタジオ『東西アニメーション』を辞めてフリーのアニメ監督になってから、八年。これまで五本のアニメ作品を監督として世に送り出してきた。

 デビュー作からどの作品も全力で取り組んできたつもりだけれど、四年前に監督した『ハルカロード』という作品が、当たってくれた。

 これもやはり深夜アニメで、四コマ漫画を原作とした作品だった。アニメにするにあたって、私は原作者の許可を得た上で、大幅にアレンジして、オリジナルのキャラやエピソードも加えた。これが多くのアニメファンから支持され、放送時は尻上がりに視聴率がよくなり、DVDや、Blu-ray、キャラクターグッズなども随分と売れた。業界内での評価も高く、その年のアニメアワードでは、優秀作品賞を受賞した。

 ヒット作を出したことで、私の名前は売れた。もちろん、そうは言っても、アニメ監督なんて一般知名度はないけれど。まあ、一部のアニメファンからは「セブン様」なんて(迷惑な)渾名を付けられる程度には。

 今回の『CAGE』は、その『ハルカロード』以来、四年ぶりとなる新作だ。そして、私がずっとずっと熱望していた、完全オリジナル作品――世界観から脚本まですべてイチから監督の私がつくる作品――である。

 テレビアニメというのは、元々人気のある漫画なりライトノベルなりを、原作としてつくるものが大多数であり、オリジナル作品は、ごく一握りの実績のある監督や脚本家しか、手がけさせてもらえない。『ハルカロード』がヒットして名前が売れたお陰で、そのチャンスを掴めたのだ。

 灰原さんが声をかけてくれ、オリジナルの企画が通った。

 前作からの四年は、ただのブランクではなく、この『CAGE』の企画段階からの準備に費やした時間だ。この間私は、自分がルーレットの前に座らされて、チップが積み上がっていくのを見ているような気分だった。

 時間を掛ければ掛けるほど、チップは高く高く積まれてゆく。失敗は許されない。『ハルカロード』の評価が高かったからこそ、次はそれと同じでは世間は納得してくれない。それを超えるものを求められている。

 もし、『CAGE』がコケてしまえば、次にオリジナルをつくれるのは、ずっと先になるだろう。いや、もしかしたら、もう永久にそのチャンスはないかもしれない。

 一世一代の勝負。オール・オア・ナッシング。

別冊文藝春秋からうまれた本

別冊文藝春秋 電子版15号文藝春秋・編

発売日:2017年08月18日


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