- 2017.11.27
- 書評
近未来を舞台に描かれた、「成長」というテーマをからめた、堂々たるファンタジー
文:金原 瑞人 (法政大学教授・翻訳家)
『ほんとうの花を見せにきた』(桜庭一樹 著)
ジャンル :
#エンタメ・ミステリ
「ちいさな焦げた顔」の主人公、梗は助けてもらったあと、ムスタァにぴたっとくっついて、こう思う。
「死体のような冷たい胸だった。
夜の温度だ。
そしてかすかな、竹の青い香り。
これはぼくのバンブー!」
一方、洋治とムスタァは梗の頬にさわってこう話す。
「すごく、温かい。火みたいだ!」
「だろ」
「ムスタァ……。この子は生きてるんだね!」
こうして、「火」をめぐる梗とバンブーたちの物語が始まる。
梗はふたりのバンブーと暮らし、成長するにつれて、「ぼくらの町の神さまはしばしばよそ見をしちゃう」ということに気づき、「人は、すぐ死ぬ」ことを恐れるようになり、自分の火を消して冷たくなって、ムスタァたちと一緒に生きたいと思うようになる。
ところがバンブーたちは、「ぼくたちは君の火を盗まない。守りたいから」といい、「君が成長して、生きていってくれることこそがぼくたちの望みです」という。
この静的でストイックなふたりに対して、梗は火を宿す人間として激しく反発し、反抗するうちに、はぐれバンブー、茉莉花と知り合い、“火を盗む”危険な遊びにひたっていく。そして物語はいきなり悲劇にむかって突き進む。
止まった時間を生きている洋治とムスタァにはふたりの論理があり、成長していく梗にも梗の論理があり、そのどちらにも属していない茉莉花にも茉莉花の論理があり、そこにバンブー一族の掟が立ちふさがる。このへんの描き方がうまい。この手のファンタジーに必要なドラマが手際よく組み立てられ、それが一種、切ないエンディングに結びつくところは何度読んでも、ため息がもれる。そして、必要最低限のセンチメンタリズムが漂っているところは見事。
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