- 2017.11.27
- 書評
近未来を舞台に描かれた、「成長」というテーマをからめた、堂々たるファンタジー
文:金原 瑞人 (法政大学教授・翻訳家)
『ほんとうの花を見せにきた』(桜庭一樹 著)
ジャンル :
#エンタメ・ミステリ
最初の作品「ちいさな焦げた顔」を読み始めて、あ、という快い既視感があった。それは家族が惨殺されて、男の子ひとりが生き残り、バンブーに育てられるという出だしだ。ニール・ゲイマンの『墓場の少年 ノーボディ・オーエンズの奇妙な生活』も同じ状況から始まる。こちらは、一家が殺し屋に惨殺され、ひとり生き残ったよちよち歩きの男の子が、墓場の幽霊たちに育てられるという展開だ。この手の、人間の子どもが異界の生き物や人間以外の動物に育てられるという発想はそう珍しいものではない。そもそも『墓場の少年』にしても、ゲイマンがあとがきで書いているように、キプリングの『ジャングル・ブック』へのオマージュなのだ。
そして「ちいさな焦げた顔」も『墓場の少年』も『ジャングル・ブック』もすべて、男の子が成長して、人間の世界にもどっていかざるをえなくなる。これが大きな約束になっている。
それからもうひとつ、人間の子を育てることになるバンブー、幽霊、オオカミたちは、非情で冷酷な人間世界から子どもを守るだけでなく、人間以上に人間らしく、さらに、人間として生きていくことがどういうことなのかを教える役割を果たし、最後にはその人間世界に成長した子どもを送りだす。
この大きな枠のなかで、どんな登場人物をどう描くか、ストーリーをどう展開させていくか、最後をどうまとめるか、そこに作者の独創性と想像力が問われる。
本書のなによりユニークな点は、バンブーという竹の種族を創造したことだろう。三つ目の作品「あなたが未来の国に行く」の冒頭にその説明がある。
「その山の奥には大昔から寿命が長くて夜しか活動しなくて人間や動物の血しか口にしない不思議な竹の妖怪の集落があって、竹族と呼ばれ、長きに亘って人間の村から恐れられてきた。いや、恐れだけではなくて、奇妙な敬意も持たれていたと言えるだろう」
血を生きる糧とする闇の種族、という意味では欧米のヴァンパイアと同じだが、「竹の妖怪」という位置づけが物語を際だったものにしている。ジョン・ポリドリの『吸血鬼』、シェリダン・レ・ファニュの『カーミラ』、ブラム・ストーカーの『ドラキュラ』から、アン・ライスの『夜明けのヴァンパイア』を経て、現代のパラノーマル・ロマンスまで延々と続いてきた大きな流れに、極東の魔女が新たな扉を開いたといっていい。
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『赤毛のアン論』松本侑子・著
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