「初めてなので、まだ迷ってます。社会的にも意味のある仕事だと思いますけど、裁判に影響が出るとよくないですし、遺族の方の感情もありますから。そもそも企画が通るかも、まだ」
「そうですか。いやあ、びっくりする事件でしたね。アナウンサー志望の女子大生がキー局の二次面接の直後に、父親を刺殺して、夕方の多摩川沿いを血まみれで歩いてたっていう。しかも、あれが話題になってましたよね」
「あれ、というと」
「逮捕された後の台詞ですよ。『動機はそちらで見つけてください』だ。一部報道では、両親に就職を反対されてたなんて話も出てますけど、それだけで父親を殺して、警察に挑戦的なこと言うなんて、やっぱり、もともと殺人を犯すような要因が本人にあったんでしょうか。母親は今もショックで入院中だっていうし。うちも娘が二人いるから、他人事じゃないですよ。たしかに女子アナ志望だっただけあって可愛い子だけど、美人すぎる殺人者って週刊誌の見出しはさすがに悪趣味だなあ」
「そうですね」
と私は相槌を打った。明かりの消えた住宅街を抜けて、白い一軒家の前で降ろしてもらう。
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