2018年7月18日17時より築地・新喜楽にて開催された芥川賞選考委員会にて、第159回芥川賞に選ばれました『送り火』(高橋弘希 著)の冒頭を公開します。
欄干の向こうに、川沿いの電柱から電柱へと吊された提灯が見え、晃が語っていた習わしを思い出し、足を止めた。河へ火を流すというのは、例えば灯籠流しのようなものだろうか――、過去に別の土地で、それを見たことがある。六角柱の灯籠の乗る小舟が、漂うように河を流れた。灯籠は百前後だったが、灯火は水面にも映るので、夜闇には実数以上の光があった。水面の灯籠のほうが、現実の灯火より鮮やかに見えることさえあった。この欄干の向こうの河を、日没後に沢山の灯籠が流れていく――、やがては灯籠が明け方の海へと辿り着く、その光景を思い描き、じりじりと頭を灼く陽光が和らぐ気がした。
「おら、島流し、なにぼうっとしてら。」
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