2018.09.09 高校生直木賞

高校生直木賞 参加25校の代表生徒たちの声(3)

第5回 高校生直木賞全国大会

直近一年間の直木賞候補から「今年の一作」を選ぶ試みである高校生直木賞。5月6日に開催された第5回の本選考会では、25校の代表者が全国から集って議論が行われ、彩瀬まるさんの『くちなし』が選ばれました。同世代の友と小説について語り合うことを経験した25人の生徒たちの感想文を3回にわけて掲載します。

名古屋大学教育学部附属高等学校(愛知) 塚本陽万里「自分への問いかけで好きを再認識」

 私は『火定』を推薦しました。どの候補作も面白く、最終的に『火定』を推薦本に決定したのは私の嗜好が理由です。そのため本選で違う本を推薦している代表者たちが納得のいく推薦意見を言うことが出来るのか不安でした。しかし本選での討論はそれぞれの本への好きという気持ちが爆発し、高校生らしい勢いのある充実した討論になったと思います。

 全国から集まった本好きの高校生たちは、本の好みは勿論受け取り方や読み解き方まで様々でした。特に驚いたのは、『くちなし』に出てくる花の花言葉を調べて読み解いている事でした。高校生にとって読書というのは、通学の時間に読んだり放課中に読んだりと隙間時間を活用して行うものだと思います。それなのに一作品ずつ丁寧に読み込んでいるのです。このように、同じ高校生だけれどまったく違う考えや楽しみ方を紹介したりぶつけ合ったりすることができるのは高校生直木賞参加者にとって最大の魅力だと思います。

 また、討論に上がっていた「低俗」と「高尚」の違いも私たち高校生がぶつかる問題だと思いました。今は書物以外にも文や情報が溢れ、140字で大抵のことが伝えることができる世の中です。触れ合う大量の作品の中から良し悪しを判断できない私たちはなるべく多くの良い作品に触れ、自分らしい感性を身につける必要があります。高校生直木賞は他人との関わりで学ぶこともあり、自分への問いかけで好きを再認識できる素敵な機会だったと思います。

滋賀県立彦根東高等学校(滋賀) 山田花音「仲間の知恵が、自らの血肉と化していく」

 私は、今回高校生直木賞の会に参加させていただいて、強い衝撃を受けました。

 まず驚いたのは、高校生直木賞に参加される各校の熱意です。それぞれの学校で深く読み込まれた読後感が、学校の代表としてこの場で全国のみんなに伝えなければならないという力のこもった発言として発信されたその熱量の大きさに圧倒されました。

 また、全国から集まった高校生が話し合うことで、その読み方が非常に多層的に深められるということにも、深く感動しました。

 幼少期から本には親しんでいるほうで、様々な分野の作品に触れる読書体験を積み重ねてきたつもりでした。一冊の本が、時を経て別のメッセージを発したり、新たな発見をさせてくれることも経験してきたつもりでした。でもこの高校生直木賞の読書会はそうした体験とは全く異質でした。

 二段階に分けて選定を進めていく中で、『火定』と『くちなし』が残り、最終的に短編集『くちなし』が選ばれました。『火定』の重厚な世界観から、宗教とは何かを考えさせられたというミッションスクール系の高校の方の話、また後半の唐突さはハリウッドのパニック映画にも共通するものであるという感想、また『くちなし』が、単なる好みの問題を越えて、フェミニズム、ジェンダーの観点まで話が深められるのは、高校生直木賞の読書会ならではのことだと感動しました。

 一人で行う読書というものは、個人の人間的成熟という時間軸でしか変容していかないと思うのですが、この読書会は同じ時間を生きる友人たちの新しい観点を得られて、読みの幅が横に広がる力強さがあります。同じ空間にいた仲間の知恵が、自らの血肉と化していくようなダイナミックさがとても魅力的でした。しかも、多様な考え方が一度に示されることで、おそらくは作者も予想していなかった世界が可視化されたのではないでしょうか。

 わずか数時間の話し合いの中でどんどん拓かれる世界に、本当にワクワクしたことでした。限られた中での決定でしたが、もし許されるなら、参加した皆さんの読書観や体験についても伺いたいと思ったことでした。この会を通して、読書をするときに多角的に物事を見ることができるようになり、読書がより有意義で楽しいものになったと思います。

 よい機会をいただき、本当にありがとうございました。

筑紫女学園高等学校(福岡) 緒方杏里「この経験をもとに、沢山読んでいきたい」

 全国の高校生たちとここまで白熱して本の感想を述べ合うのは、きっと高校生直木賞でしか出来ない経験だろう。本選会を終えた今、この企画に参加して良かったと切実に感じている。

 たくさんの生徒たちと話し合いを進めていく中で、予想だにしなかった意外な意見が多くあった。例えば『くちなし』については、本校では独特な世界観に難色を示す生徒が多く、相対的な評価も悪かったが、本選会ではむしろ、その世界観について好意的な意見が多く見受けられた。「そんな受け取り方があったのか」と驚かされることも多々あり、一冊の本にしても人によって抱く印象は違うのだということを感じさせられた。

 きっとこの企画に参加していなければ、そうして多面的に本の解釈を深めることは出来なかっただろう。本は自分だけで楽しむことも出来るが、人と感想を共有することで得られるものは多いのだと気づいた。

 更に、本選会では、高校生直木賞の選考基準がしばしば争点となったが、これは自分が読書をする上での判断基準に直結するものであると感じた。自分はどのような本を面白いと感じ、またどのような本を人に勧めたいと思うのか。改めて自分の読書に対する姿勢を見つめ直すいい機会になった。

 これからもこの経験をもとに、本を沢山読んでいきたい。


■都立富士高等学校(東京) 丸山珠里「自分の読書を見つめ直した」
■向上高等学校(神奈川) 岩田萌子「一冊の本にも二十五の意見あり」
■湘南白百合学園高等学校(神奈川) 山本萌未「自分の視野の狭さを思い知った」
■静岡県立磐田南高等学校(静岡) 鈴木紗英「感心しっぱなしの四時間」
■藤枝明誠高等学校(静岡) 増田充希「ぶつけ合って初めて気づく解釈」
■海陽中等教育学校(愛知) 森島佑紀「本が好きと話し合うのは何て楽しいのだろう」
■名古屋大学教育学部附属高等学校(愛知) 塚本陽万里「自分への問いかけで好きを再認識」
■滋賀県立彦根東高等学校(滋賀) 山田花音「仲間の知恵が、自らの血肉と化していく」
■筑紫女学園高等学校(福岡) 緒方杏里「この経験をもとに、沢山読んでいきたい」


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