ずっと付き添っておられた光子奥様には、面会時間が終わる時刻に近くなると、時計を見て、「もう七時になるで……」と帰るよう促されていたと。「いま思えば、泊まってやったら良かった思いますけど、病院の規則で泊まりは出来ませんで……」と、どこまでも師匠思いの光子奥様です。
私が最後に電話でお話ししたのは四月十日、文庫のお打合せでしたが、お医者様にお稽古も控えるよう言われて、「弟子の稽古もせんと、寝たり起きたりしてても、そんな生活したことないしなァ……」と少し心細げなご様子で、師匠が生き甲斐にされていた“後進の指導”が思うに任せぬ状況になっておられるとは、「さぞ、お辛いことだろう……」と胸が詰まる思いでした。
それから半月ほどしてのご逝去の報でしたが、ご家族のお話を伺いながら、「師匠は最期まで、竹本住大夫としての人生を全うされたのだ」と思いました。この本にも出てきますが、楽しみといえば、たまに温泉に行くぐらいで、あとは文楽と浄瑠璃に彩られた住大夫師匠の一生です。
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