- 2021.06.15
- インタビュー・対談
文庫化!<行成 薫インタビュー> 読者に“プロレスを仕掛けた”意欲作
「オール讀物」編集部
『ストロング・スタイル』
出典 : #オール讀物
ジャンル :
#エンタメ・ミステリ
※単行本刊行時に行われたインタビューです(2018.09.06掲載)
行成さんの新作は、いま幅広い世代で人気が再燃しているプロレスをめぐる熱い人間ドラマだ。
「格闘技は好きで、プロレスは小学生の時からかれこれ二十六、七年は見ています。やはり好きなことなので『こんなスピードで書いたことがない』と感じたくらい、原稿の進みがよかったですね(笑)」
物語は二人のレスラーを中心に展開する。父の影響でプロレスを始め、日本最大の団体のトップとなる御子柴大河。そして、大河の同級生で抜群の運動神経を持ちながら体が小さいことを理由にイジメられ、インディーズ団体で活躍する小林虎太郎。
真逆の境遇である二人を、ビジネス優先で試合のストーリーを決める冷酷なマッチメイカー、個性的な同僚レスラーらが、それぞれの思惑で揺さぶっていく。
「いざ小説でプロレスを書くとなると“どこまで書くか”という葛藤が生まれました。人を中心に書こうとすると、この業界の舞台裏を書かざるを得ない。でも書きすぎると、ファンとして裏切りにあたる気もしていました」
そんな迷いを切り替えることができた契機が、現在のプロレス人気の先頭に立つ棚橋弘至選手の言葉だった。
「棚橋選手とノンフィクション作家の柳澤健さんのトークショーを聞きに行ったんです。それこそ柳澤さんはプロレスの裏の裏まで書いている方。実際その場でも柳澤さんがリング外の話を仕掛けるんだけど、棚橋選手は笑いに変えたり、はぐらかしたり、ときに真面目に答えたり……まるでプロレスの試合を組み立てるように、見事なお話に仕立てるんです。その姿から感じたのが『誰に何を言われようがプロレスは揺るがない』という棚橋選手の自信と強さ。僕ごときがビクビクする必要はないと決意が固まった。そして、せっかくなら、作者としても読者にプロレスを仕掛けるつもりで書こうと」
虚実を織り交ぜながら“裏の約束事”まで書き切ったからこそ、むしろ選手たちのプロレスに賭ける誠実さがき出しで伝わってくる。本作から立ちのぼるのは、人間が持つ泥臭い本当の強さだ。
「大人になれば力の強さだけでなく、いろんな形の強さが必要になります。大河や虎太郎も、リングでの強さだけでなく、人間としての強さを培っていく。そんな二人が戦った時、どんな力が生まれるのか。それが『ストロング・スタイル』というタイトルに集約されます。この言葉の意味するところを、本書を通じて読者に探ってもらえたら嬉しいです」
ゆきなりかおる 一九七九年宮城県生まれ。二〇一二年『名も無き世界のエンドロール』で小説すばる新人賞を受賞。著書に『僕らだって扉くらい開けられる』『廃園日和』他。
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