書評

人の心の深層と時空の隙間を旅するエンタメ

文: 恒川光太郎 (作家)

『黄昏旅団』(真藤順丈 著)

『黄昏旅団』(真藤順丈 著)

 どんな人間にも人生があり、歩んできた道がある。その〈道〉に入り、その人間の辿ってきた人生を「バックパックを背負って歩く」という行為で辿ることのできる特異能力者たちがいた――。

 この独創的な設定を、破壊力抜群の真藤順丈節により、ただならぬ完成度でエンターテイメントに仕上げたのが本作である。それにしても真藤順丈作品群ではもっとも超自然色の濃い作品ではないだろうか。

 路上生活者であり、〈落伍者〉のグンとタイゼンは、丹沢山中のいかがわしいカルト団体〈蒼穹(そら)の家〉のコミューンに、そこで暮すある家族の調査をするため、忍んでいる。この二人が、まずは調査家族の父親のインナーワールドの〈道〉に入っていくのだが、その目的は「秘密や弱みを握って金をまきあげるため」なのだという。だがそれは照れ隠しの偽悪的な建前で、本音は彼らの友人である少年マナブに、子供を残して、コミューンにたてこもった家族を取り戻してあげるためなのだ(とグンは思っている)。ベテランのタイゼンと、見習いの若者グンのリズミカルでユルめの会話は、何かこう気のおけない友人と軽口を叩きながら路上を歩いている気分になる。随所にでてくるリミッターの外れた罵倒が楽しい。

〈道〉に踏み込んでからは、活劇に転じる。鮮烈な映像美が脳裏に浮かぶし、随所にアクションがあり、主人公も宿敵もキャラがたっている。真藤さんには「七日じゃ映画は撮れません」という映画愛が結晶化した作品があるが、本作は、映像作品なら見せ所になる部分が多く、かなり映画向きの作品と感じる。先の見えないカーブが多く、どこに向かうのかわからない物語は、中盤から幽界の気配が一気に深まりだす。

黄昏旅団真藤順丈

定価:本体800円+税発売日:2019年04月10日