冒頭に登場する象を丸呑みした大蛇の絵は、それを象徴する踏み絵のようなもの。あの時、私は興奮して物語を読みながら、自分はどんなに歳を重ねても、象を丸呑みした大蛇の絵を、見た目だけで帽子だと言ってしまうような大人にはなるまい、と誓ったのだ。王子さまは私に、物事の真を見抜くことがいかに大切かを教えてくれた。そしてその真は、決して難解な言葉でしか表せないようなことではなく、曇りのない心で見れば、誰しもが気づき、理解できることなのだと。
以来、幾度となく『星の王子さま』を手にとっては、王子さまの言葉に耳を傾けた。私が王子さまに会いたくなるのは、たいてい心にすきま風が吹く時だったが、面白いことに、王子さまはその都度、私に新たな気づきをもたらした。
十代の頃は、王子さまと狐との距離の近づけ方に友情のあり方を考えさせられ、二十代や三十代の頃は星に残してきたバラの花と王子さまとのやりとりに、愛することの本質を教わった。バラの花は見栄っ張りで王子さまに無理難題を押しつけ、王子さまはそんなバラの花の一挙手一投足に振り回されるが、そこには一人の相手を真剣に愛することの苦悩が表されている。愛とは決して綺麗事ではないのだと、大人になれば誰もが実感するだろうことを、王子さまもまた、バラの花との交流を通じて学んでいく。
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