私が初めて『星の王子さま』を読んだのは、高校生の時だった。今から三十年も前になる。放課後を迎えた誰もいない教室で、夢中になってページをめくったのを、まるで昨日のことのように思い出す。
とにかく、衝撃的だった。こういう内容の本が世の中に存在し、しかもそれが世界中で読まれているということに、私は新鮮な驚きを覚えずにはいられなかった。
物語の中盤で、王子さまは六つの小惑星を訪問するが、そこには、他人に命令することだけがすべての王様や、褒め言葉以外は耳に入らないうぬぼれ男、酒を飲む自分を恥じ、それを忘れるためにまた酒を飲むという大酒飲み、数字の計算ばかりに精を出すビジネスマンが住んでいる。まるで、自分自身が大人の世界に感じていた違和感がそのまま表現されているようで、私は本の存在に救われた。そして、自分の中にも確かに「王子さま」が住んでいることに気付かされた。
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