今回、私は久しぶりに王子さまと再会したのだが、四十代となった私に新たな気づきをもたらしたのは、死に関しての記述だった。おそらく、十代や二十代で読んだ時は、王子さまの最後をほとんど意識していなかったような気がする。けれど今回改めて読み、王子さまと死が明確に結びついた。
王子さまは、言う。
「わかるよね。遠すぎるんだよ。ぼく、この体をもって帰るわけにはいかないんだ。重たすぎて」
「体って、捨てられた古い貝殻みたいなものだ。悲しくなんかないよ。古い抜け殻なんて……」
バラの花に再会するため、王子さまは自らの死を選ぶのだ。そして、砂漠の中で井戸を探す前、狐のことを思い出して、「私」にこんなことも語っている。
「死ぬことになったとしても、友だちがいたというのはいいことだよ。ぼくはね、狐と友だちになれてほんとに嬉しい」
ここまで私が強烈に死の匂いを感じたのは、やはり訳者である倉橋由美子さんによるところが大きいのだろう。
友情にせよ愛にせよ死にせよ、『星の王子さま』に書かれているのは、生きることのままならなさだ。だからやはりこの本は、最初にサン=テグジュペリが書いている通り、大人に向けて書かれた物語なのである。
人は決して、自分の思うようには生きられない。時に翻弄され、流されながらも己を信じて生きていくしかない。王子さまも、自ら死を選ぶが、それは肉体における死であって、魂の死滅ではない。
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