疑問に思ったことはそのままにしない、興味を抱いたものは徹底して調べる、というのが倉橋氏の基本姿勢でした。小説に取りかかるときも驚くほどたくさんの文献を集め、下準備に時間をかけ、原稿用紙に向かったら一気呵成に書き上げる、というのが常でした。『星の王子さま』を訳すにあたっては、仏語に加えて英語、スペイン語のテキスト、サン=テグジュペリに関する資料、その他の関連書を取り寄せました。また、箱根の「星の王子さまミュージアム」に行き、展示されているサン=テグジュペリの自筆原稿まで見てきたのです。私はそれを聞いて、納得しなければ前に進まないという潔癖なまでのその姿勢こそ、翻訳者が見習わなければならないものだと痛感しました。
では、「なぜ、王子さまは最後に消えたのか」という倉橋氏の疑問はどんな解決をみたのでしょう。それは「あとがき」で次のように述べられています。
「そもそもこの王子さまは、パイロットの『私』がサハラ砂漠で不時着して、孤立無援のまま死に直面した状況で出現します。ということは、『私』が死を覚悟したときに自分の中に発見した『反大人の自分』、大人の世界とは対立する本物の自分である『子供』が、王子さまの姿をとって現れたということです。(略)しかし考えてみれば、『私』は砂漠で発見した王子さま、あるいは子供である自分と、いつまでも一緒にいるわけにはいきません。幸運にも飛行機の修理に成功し、『私』が死を免れて現実の大人の世界に復帰することになったからには、この王子さまを何らかの形で『処分』するほかないのです」
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