『星の王子さま』に描かれる八日間のことを、倉橋氏は「大人対子供の対立」ととらえ、結末については「大人の世界とは対立する本物の自分」を「処分」して「現実の大人の世界」に戻ったとみなしています。いかにも倉橋氏らしい独特で新鮮な見方です。こうした独自の見方を得て初めて、倉橋氏はこの作品を翻訳しようと思ったのでしょう。
倉橋氏は長い時間をかけて作品に対する揺らぎをなくし、自分を納得させたのです。そして納得してからはたった一ヵ月でこの翻訳を仕上げました。その間、何度か電話をいただき、外国語を日本語に移し換える上での工夫について、言葉に含まれる微妙なニュアンスについて、王子さまとパイロットの会話や「消え方」について話し合いました。そのときのことを思い出すたびに、氏の明晰な頭脳、膨大な知識と教養、作家としての一貫した姿勢に胸打たれます。
二〇〇五年六月十日に倉橋氏が急逝した折り、葬儀の前夜に、出版を目前にした本書のゲラを読む僥倖に恵まれました。手直しが加えられていたのは二箇所だけでした。
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