若いころにアメリカに留学したことがあるとはいえ、仏文科出身で、在学中にカミュやサルトル、プルーストなどを原書で読んでいた倉橋氏ですから、どちらかといえばフランス語のほうが得意だったはずです。それで私は、倉橋氏の訳したフランス文学の作品を読みたいと、ずっと思っていました。ところが、ある時「いまは訳したいと思うフランス語の作品がありません」という言葉を耳にし、倉橋訳のフランス文学を読むことは叶わないかもしれない、と諦めていたのです。
ですから、こうしてフランス語からの翻訳が読めたことはひとりの読者として嬉しい限りです。その一方で倉橋氏の最後の翻訳作品が悲劇的な結末の用意されている物語だったことには、一抹の悲しみを覚えます。
倉橋氏は『星の王子さま』の終わり方にずいぶんとこだわり、この作品を翻訳することを当初は躊躇っていました。本書が単行本で出るのに先立って『星の王子さまの本』(宝島社)が出版されましたが、そこに収録されたインタビューで、倉橋氏はこう述べています。
「一番ひっかかったのは最後の部分。実にさりげなく王子さまは消えた。だけど、花の世話ができるようになって星に帰ったのか、あるいは本当に消えたのか、そこがとても曖昧なんですね。なぜ、王子さまは最後に消えたのか。それによって、物語全体に対する考え方もちがってくると思うんです。納得がいかなくて、考えこんでしまいました」
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