- 2019.08.08
- インタビュー・対談
ラストに驚愕の声。売り切れ続出、いま一番話題のミステリー 『いけない』道尾秀介
「オール讀物」編集部
“まったく新しい読書体験”を!
出典 : #オール讀物
ジャンル :
#エンタメ・ミステリ
自殺の名所近くで起きた交通事故。悲劇がもたらす復讐の連鎖──。
不穏なサスペンスに満ちた本書の第一章「弓投げの崖を見てはいけない」は、実は十三年前に書かれた作品だ。
“不可能犯罪ばかり起こる架空の町”を舞台にしたミステリーアンソロジー企画(『晴れた日は謎を追って がまくら市事件』創元推理文庫)の一編としてこの世に生み出された。
「二〇〇六年二月二十八日。これが原稿を編集者に送ったファイルの日付です。当然、書いたときには続編など考えていませんでしたが、あまりにも会心の出来だったので、いつかこの中編を起点に何か大きいことをやってみたい、とは思っていたんです」
十三年前、第一話を完成させた道尾さんが、特に“会心”と感じたポイントは、本書にも収録されている町の「地図」の使い方にあった。
「僕はミステリーであっても、図版や地図などをなるべく自作に入れないようにしてきました。文字の力を信じているので、ビジュアルを入れないほうが読者のイメージをふくらませることができると考えているからです。
しかし、この中編には“地図があって初めてストーリーが成立する”という趣向をこらしています。もっと言ってしまえば、本文を読んだ上で、地図をじっくり眺めると、“最後に何が起きたのか”がわかってくる仕掛けになっている。工夫しだいで読者の想像力をさらに刺激できるようなビジュアルの使い方ができるんだとわかったことが、僕にとって大きな発見でした」
それから十一年。フリーテーマでの中編の依頼があったのをきっかけに、「またとないチャンス」だと思い、第二話の執筆にとりかかった。
「『弓投げ~』の趣向を踏まえつつ、されど同じパターンにならないよう図版の意味合いを変えながら、“小説とビジュアルを組み合わせて事件の真相を読者に示唆(しさ)する”スタイルの中編を新たに書くことができました。
もともと僕は『三題噺』みたいに、すでに存在する基礎をもとに増築を重ねて“見たことのない建築物”を作るのが大好きなタイプ。続けて第三話を書き、さらに第一話~三話をぜんぶ引き受けるような終章を書いて、一つの大きな物語に仕上げたんです」
本書ではすべての章の最終頁に図版を挿入。道尾さんは「これまで読んだことのない小説を生み出せた」と語る。
「小説を読む人が減ってきてるなら、小説自身がもっと読まれるように変わっていかないといけないと思うんです。この本で、まったく新しい読書体験をしてもらえるんじゃないかと」
みちおしゅうすけ 二〇〇四年『背の眼』で第五回ホラーサスペンス大賞特別賞を受賞し作家デビュー。一一年『月と蟹』で第一四四回直木賞。近著に『スケルトン・キー』など。