- 2019.09.04
- インタビュー・対談
ラジオは嘘がつけない──『どうかこの声が、あなたに届きますように』で描いたのは、二十歳の元地下アイドル
『神様の御用人』の作家 浅葉なつの最新作
ジャンル :
#エンタメ・ミステリ
──神様たちの願い事をかなえるため、人間の御用人が奮闘する『神様の御用人』は現在8巻まで刊行され、150万部を超えたそうですね。浅葉さん御自身、神社がお好きなんですか?
そもそもは、四国から大学で神戸に出てきた時、京都が近かったので遊びに行くようになったのがきっかけなんです。神社にしょっちゅう行っていたら、面白くなりました。デビューした後もずっと好きで、それが高じて「神社検定」を受けたことをカドカワの方に雑談で話したことから、『神様の御用人』が生まれたんです。今では多くの人に「神様と神社の人」と認識されているようで……「いちばん好きな神社は?」ってよく聞かれて悩みますが、やはり伊勢神宮は別格ですね。崇敬会にも入っているので、季節ごとに会報誌が送られてきたり、神事に参加できたり、御垣内参拝が出来たりします。今も休みがあると人に聞いたり調べたりして各地の神社に出かけるのが楽しみです。
──そんな浅葉さんの今作は、20歳のもと地下アイドルが主人公。傷ついて、人前でマスクを外せなくなってしまっていた彼女がスカウトされて、ラジオパーソナリティとして成長する姿を描かれました。ラジオをテーマに選んだきっかけは。
一番ラジオを聴いていたのは中学生の時で、TOKYOFMの「赤坂泰彦のミリオンナイツ」をよく聴いていました。その時に出会った「尾崎家の祖母」という曲は、今でも印象深いです(笑)。それから高校、大学と社会人を経て作家になったのですが、私の先輩作家の著作にはアニメ化している作品が多くあり、編集者や先輩の話に声優さんの事がよく出たんですね。でも自分は声優さんを全然知らない。それならちょっと勉強しておこう!と思いまして。その時に参考になったのが、声優さんがやってるラジオ番組でした。神谷浩史さんと小野大輔さんの「DGS (ディアガールストーリーズ)」っていう長寿番組があるんですが、聴いてみたら結構無茶苦茶なことをやってたんですよ。たとえば、文化放送の外でドリアンを解体してみたり、神谷さんの自宅で収録してみたり。ラジオ番組なのに、10年目突入を記念して「ないたまスーパーナニーナ(さいたまスーパーアリーナ)」で2日間のライブをやったり(浅葉さんは両日参戦)、ラジオ番組なのになぜか3回も映画化していたり……と、私のラジオに対する概念をひっくり返してくれました。それと、『波よ聞いてくれ』っていう漫画。ラジオパーソナリティが主役なんですけどこれが面白くて、そういうところから「ラジオの話を書いたらおもしろそうだな」とぼんやり思っていたんです。そうしたらちょうどいいタイミングで、「くにまるジャパン 極」の「本屋さんへ行こう!」のコーナーに出演依頼があって。それから怒涛のごとく、この企画が動き始めました。
──番組アシスタントになった主人公・夏海に起こるトラブルにハラハラさせられながらも、つい笑ってしまうような彼女の言葉遣いのセンスや、ポンポン交わされる小気味良い会話は非常に楽しいですね。「神回って、こうやって生まれるんだなあ」などと感動しつつ、現場の空気が追体験できるようでした。
ありがとうございます。ウケを狙わずに、彼女というキャラクターが言いそうなことを素直に書きました。
これは実際にプロデューサーの方がおっしゃっていましたが、「声は嘘がつけない」んです。ラジオで声を聴いていると、「この人意地悪そう」とか「話を聞いてくれそう」とか、わかります。演技がうまいとかそういうことじゃなくて、素の人柄が出るのがラジオ。普段は意識してないかもしれないけど、声の存在、その人の言葉が届くってどういうことか、この小説を書くにあたって改めて考えました。
ちなみに、以前自分が出演したラジオの放送を聞いた時は、「はきはき喋ったつもりだったのに、めっちゃボソボソ聞こえる!」とビックリしました。オタクなので早口だというのもあるんです(笑)、声だけって、思っている3倍くらいハキハキとテンション高く喋らないと伝わらないんだな、やっぱりプロはすごい、と思いました。
──カバーの絵、マスクをした女性の訴えるような目が印象的です。
ここ数年、マスクをした若い人が男女問わず増えましたよね。街中でも見かけますし、ユーチューバーでもいらっしゃいます。この小説の中で、夏海もずっとマスクをしています。「大勢の人に顔を知られたくない」という理由ならわかるのですが、「自分はブスだから」「歯ならびが悪いから」という理由も散見されて、容姿への批判の声が大きく、それをプレッシャーに感じる人が多いのだと痛感します。それと、純粋に他人とコミュニケーションするのが怖くて、他人との間に一枚マスクを挟みたいという人も。隠したり守ったりしたい、その気持ちはすごくよくわかります。でも同時に、それを一生やるのは正直しんどいよね? とも思います。価値は顔だけじゃない、と言うのは簡単ですけど、じゃあどうしたらもっと自分に自信が持てるのか。たぶんそこには、マスクに集約されたそれぞれの問題があるのだと思います。どうか自分で自分を定義づけないで欲しい。カバーの絵がきっかけになって、この小説を手にとってくれる人がいたら嬉しいですね。
──今後のご予定を教えてください。
『神様の御用人』9、10巻の準備をしています。2021年2月が作家デビュー10周年なので、そこまでには出したいです。
そして最近は、「なむあみだ仏っ!」というソーシャルゲームにはまっています。衆生に降りた仏が、共同生活をしたり、煩悩を退治したりするのですが、仏教へのリスペクトが溢れていて楽しいです。私はこのゲームのおかげで如来と菩薩の区別がつくようになりました(笑)。奈良あたりの古刹を、改めて巡ろうと思っています。
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