4月28日に開催された第6回の本選考会では、28校の代表者が全国から集って議論が行われ、森見登美彦さんの『熱帯』が選ばれました。同世代の友と小説について語り合うことを経験した28人の生徒たちの感想文を3回にわけて掲載します。
藤枝明誠高等学校(静岡) 村松克洋「『夢に迷い込んだような』体験だった」
「今年の高校生直木賞は『熱帯』です」
四月二十八日、東京、文藝春秋社。その瞬間、会場は拍手で満たされた。私もまた、待ち望んだ言葉を聞いて心から手を叩いていた。
今年の冬、『熱帯』を読み終えた私は、高校生直木賞を取るべきはこれだと思った。その魅力が他の本とは様相を異にしていたからだ。ほかの作品は、リアリティとか、資料に基づいた設定といった点に特徴があったのに対して、『熱帯』は、突然登場する作者森見氏や、京都の街並み、ロビンソン・クルーソー等実在の名作の数々など、現実感のある部分と、謎めいた本をめぐる荒唐無稽な物語という空想とが入り混じり、夢に迷い込んでしまったかのような圧倒的世界観が最大の魅力だ。
所属している図書研究会の読書会でも、『熱帯』は千一夜物語と密接に関係した、表現全てに意味のある作品だという結論になった。
当日は、二十八校が参加し、議論は白熱した。しかし、人数が多い分、各自の持ち時間は短くなる。一度発言してしまえば同じ本について二度目の発言のチャンスはなかなか来ない。そのため、議論の応酬という形にはなりづらく、まとめてきた最初の意見をもとに、皆判断の立ち位置を決めていたように思う。
楽しくもあり、難しくもあった選考会。けれども、書店や図書館で手に取るだけだった憧れの作家の方々について論じ合い、一票を投じることができたのだ。それこそ、『夢に迷い込んだような』体験だった。
愛知県立昭和高等学校(愛知) 岡戸俊樹「他人の意見を聞いて自分の意見の厚みが増した」
私が高校生直木賞の企画で得たものは、「出会い」だ。本稿では三つの出会いから振り返る。
一つ目の出会いは、校内での読書子たちとの出会いである。高校生になり、本好きとの深い交流を期待していたが、機会に恵まれなかった。しかし、校内選考会でこう感じた。「昭和高校にもこんなに激しい本の虫が隠れていたんだ!」それほど話し合うことが楽しかった。
二つ目の出会いは、全国から集まった強者たちとの出会いである。私は『熱帯』を推していたが、他の作品を支持する意見の骨組みが強固で圧倒された。他人の意見を聞いて自分の意見の厚みが増すというのは校内選考でもあったが、作品への印象が変わるのは初めてだったので衝撃を受けた。
三つ目の出会いは、本の作り手との出会いである。作家や編集者と会話をしてどんな人たちが自分の読む本を作っているかを知り、小説の世界がより強く現実の世界と結びつけられた。どこか知らない世界の人間が小説を生み出すのではなく、読者と同じ世界の人間が創作するのだと思い、生々しさを感じた。
最後に、付け足しだが、全国大会での私の発言について申し述べておきたい。「本の帯なんて買ったら破り捨ててしまえばいい」と言ったが、本を選ぶ際には参考になる。読み進める時に帯の言葉に引きずられるのは避けたい、ということだ。帯そのものの存在価値は否定しないので、あしからず。
これからも「出会い」を大切にして本と関わりたい。
■横浜富士見丘学園高等学校(神奈川) 庄司梨颯「様々な価値観の人と好きな本を語り合う経験」
■静岡県立磐田南高等学校(静岡) 山下直也「身も蓋もないことも自由に言えた」
■藤枝明誠高等学校(静岡) 村松克洋「『夢に迷い込んだような』体験だった」
■愛知県立昭和高等学校(愛知) 岡戸俊樹「他人の意見を聞いて自分の意見の厚みが増した」
■名古屋大学教育学部附属高等学校(愛知) 竹中えりか「周りの環境が違うのに同じ解釈が出てくる面白さ」
■滋賀県立彦根東高等学校(滋賀) 陌間紗佳「人と話すことで、本はもっと面白くなる」
■福岡県立城南高等学校(福岡) 鎌田冬彌「気がつけば自分も議論の輪に入って熱心に語っていた」
■筑紫女学園高等学校(福岡) 平一葉「本の世界は無限大」