緊急事態宣言で不安を感じている方もたくさんいると思いますが、まるで現在のパンデミックを予言したような小説が書かれていたのをご存じですか?
貴志祐介『罪人の選択』所収の「赤い雨」。小説の想像力こそが、私たちの抱える不安の正体を明らかにしてくれるはず……。その魅力の一端を紹介します!
未知の生命体「チミドロ」と死の感染症「RAIN」が蔓延する汚染された世界。一部の特権階級の人々のみ密閉された安全なドームに住み、それ以外は感染リスクが極めて高いスラムに住んでいる。その間の貧富の差と人権差別は激しく、ドーム内の最重要事項は「チミドロ」を根絶する研究や感染症の治療法の開発よりも、既得権益を守ることと自らの身の安全のみ。世界は迫り来る死への恐怖に覆われている……。
本作の連載が始まったのは約5年前だが、それが今このタイミングで書籍化され、小説に現実がシンクロしてくるようなあまりのタイムリーさに怖くなった。世界規模のパンデミックに際しても、他人を危険に晒してまで利己的な行動を取る人は現実にも少なからずいる。命は平等ではないと声高に叫ぶ人もいる。危機の時こそ人間の本質が出るのだとつくづく思う日々だが、この物語の中でまさに著者は、病と同じくらい恐ろしいのは人間のそういった心であると描く。単なるパンデミックストーリーに終わらない人間ドラマ、それも本作の魅力だ。
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