解決不可能と思われた謎に論理的な結末がもたらされる。そんな本格ミステリー的な読み味が魅力の作品ではあるが、本作をもう一段味わい深くしているのは、脇役に至るまで個性的な登場人物たちのドラマだ。法廷で謎が解かれるとともに、登場人物たちの隠された人間関係が浮き彫りになる過程もまたスリリングである。
「ことさらに人間ドラマを描こうとしたわけではありません。むしろ小説を書き始める段階では大まかなストーリーの骨格があるだけで、登場人物のことはほとんど考えていなかった(笑)。ただ僕の考えでは、人が罪を犯す以上、そこには何らかの事情があるに違いないと思うんです。それを自分が納得できる形で突き詰めていった結果、現在のような形になりました」
司法修習期間は約一年。それを終えたら五十嵐さんは、法律家と小説家、二つの顔を持つことを決めているという。
「まず司法修習の後は、刑事事件に積極的に取り組む弁護士になりたいと思っています。弁護士は、たとえ依頼者が無茶な主張をしていても寄り添っていく仕事です。そうやって必ずしも正しくないかもしれない声を司法の場に届けるのも社会正義の一つの形なんじゃないかと。また執筆の方では二作目の準備をしていて、テーマは少年犯罪です。少年事件は特殊な世界で、更生できることを前提に審判するので、罪を犯した少年の生い立ちや家庭環境を重視するんです。司法修習を受ける中で少年事件の審判を見て、刑事裁判以上に一人の人間と向き合う姿に感銘を受けました。少年犯罪を扱うことで、なぜ人は罪を犯すのか、という人間の不合理さに迫ることができるのではないかと思っています」
いがらし・りつと 一九九〇年岩手県生まれ。東北大学法学部卒業。司法試験合格。『法廷遊戯』で第六二回メフィスト賞を受賞し、デビュー。
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