8月23日にオンラインにて開催された第7回高校生直木賞の本選考会。32校の代表者が全国から集まり、4時間を超える議論の結果、大島真寿美さんの『渦 妹背山婦女庭訓 魂結び』を「今年の1作」に選びました。同世代の友と小説について語り合うことを経験した高校生たち感想文を3回にわけて掲載します。今回は晃華学園高等学校、横浜富士見丘学園高等学校、向上高等学校ほか6校をご紹介します。
晃華学園高等学校(東京都)遠藤凜「クリアになった“おもしろさ”の正体」
私は本について友人と話す時、本がおもしろいか、おもしろくないかでしか話したことがなかった。
友人A「その本どうだった?」
私「めっっっっちゃおもしろかった! やばい!」
以上である。何がどう面白いのか、どこに感動したのかそのようなことを深く考えたことはなかった。
しかし高校生直木賞の議論での参加した高校生らの発言は、いつもの私の本の会話ではなかった。私の思う「おもしろい」という単純な感情の中にあった何かを言葉で伝えていた。そして今まで本を読みながら感じていたおもしろさの正体がクリアになり、目から鱗がポロリと落ちた。
また一方で自分の読書時に感じなかったことを語っていた高校生もいた。熱く語られるのを聞いているうちにいつの間にか私も自分の言葉で話したくなった。ただの「おもしろい」に自分の言葉で内容を掘り下げて伝えたくなったのだ。
それが本当に楽しかった。私の話したことに反応してくれた高校生がまた新たな意見を加えて話す。そしてそれに関してまた違う話が広がる。オンラインであったにもかかわらず、このようにひとつの本から様々な意見が広がっていくのを目の当たりにして、こんな楽しいことを私はなんでしてこなかったのだろうと不思議に思った。
この経験は私に新しい本の楽しみ方を教えてくれた。次友人と話す時はこんな話がしたい。
友人A「その本どうだった?」
私「ふっふっふっ。主人公が弟分の才能に嫉妬しちゃうところがね……」
横浜富士見丘学園高等学校(神奈川県)須佐千咲「本一冊分の余裕を持った大人に」
読書家ではないので参加しても大丈夫かなと不安だったのですが、議論を終えた時には参加してよかったと思えるような選考会でした。
例えば、どんな本を高校生に読んで欲しいか話し合う中では、読みやすさや面白さを重視するのか、学びを重視するのか、意見が違ったところがありました。その時には多くの人に手に取ってもらうには読みやすさや面白さの要素の方が必要ではないかという意見にまとまったのですが、どちらが正解ということはないと思いました。そのため、正解がない中から選ぶ難しさに直面しました。
また自分の意見を正確に伝える力や相手の考えを受け取る能力を高めていく必要があると感じました。
大人になるにつれて本と触れ合える時間は少なくなってしまうと思います。ただ、もしそこで本一冊分の余裕を持ち手に取ることができたなら、きっと素敵な時間に出会えると感じることができました。
向上高等学校(神奈川県)北村優衣「オンラインだからこそ伝わってきた言葉」
今回の選考会は、私にとってかけがえのない貴重な体験となりました。
私はこの高校生直木賞選考会には初参加で、例年とは違いオンラインでの話し合いということもあり不安がとてもありました。しかしオンラインだからこそ、参加者一人ひとりの言葉がはっきりと伝わってきました。発言者側も意見を言いやすく、私も安心して議論に参加できました。
当日の最終選考会では『渦』・『熱源』・『トリニティ』の三作で票が大きく割れました。各作品に説得力のある素晴らしい意見が沢山集まり、最後まで結果が予想できないほど白熱した議論が続きましたが、最終的には『渦』に決まりました。私はこの作品の、関西弁のセリフのテンポと浄瑠璃の引き込まれる世界観が好きだったので、『渦』に決まって嬉しかったです。
議論の中でも話題に上がりましたが、私は高校生直木賞の意義について、同じ高校生に読んでもらい、そして考えてもらいたい、そういう本を選ぶということにあると捉えています。その点でも、今回の選考会は意味のあるものになったのではないかと思います。
■晃華学園高等学校(東京都)遠藤凜「クリアになった“おもしろさ”の正体」
■横浜富士見丘学園高等学校(神奈川県)須佐千咲「本一冊分の余裕を持った大人に」
■向上高等学校(神奈川県)北村優衣「オンラインだからこそ伝わってきた言葉」
■湘南白百合学園高等学校(神奈川県)今村瞳子「意見の波紋が広がるのを眺める快感」
■横須賀学院高等学校(神奈川県)知識つぐみ「本の感想を共有するという初めての経験」
■加藤学園暁秀高等学校(静岡県)中原瑠南「読書人生の忘れられない一ページ」
■藤枝明誠高等学校(静岡県)久保田蒼「“空腹”の満たされる選考会」
■静岡県立磐田南高等学校(静岡県)小野真司「Zoom開催の良さと課題」
■愛知県立昭和高等学校(愛知県)栁本海斗「四苦八苦、十六苦の果てに」