- 2020.12.09
- インタビュー・対談
現代社会で求められる「スター」とは――『スター』(朝井 リョウ)
「オール讀物」編集部
Book Talk/最新作を語る
出典 : #オール讀物
ジャンル :
#エンタメ・ミステリ
映像業界に生きる二人の青年を描く
新人監督の登竜門となる映画祭でグランプリを大学生で受賞した二人の青年―大学卒業後、名監督への弟子入りをした尚吾と、YouTubeに活路を見出した紘を、ダブル主人公に据えた本作。冒頭は新聞に掲載された二人のインタビュー記事で始まる。それを、二人で訪れた映画館で久しぶりに見かけた紘は「古文書みたいになってんじゃん」と茶化す。新聞連載という形式にあわせた朝井さんならではの遊び心と、メディアに対する「意地悪心」がわかるシーンだ。
「最初は、紘側の立場の人間が新しいやり方で成り上がるド直球エンタメを構想していたんです。でも、尚吾側、いわゆる古い価値観を悪いものだと断じたいわけでもないなと思い直し、読者が両方の立場を行き来しながら読み進められるようプロットを大きく修正しました。わたしは新しい時代を書く人と評していただけることがありますが、今の時代のアイテムや言葉を使って昔から変わらない普遍的なことを書き直しているだけだと再認識しました」
本作は作家生活十周年の記念作品。この十年間で最も変わったこととは。
「十キロ太ったことです。というのは半分冗談で、長期的な視野を持てるようになったことです。デビューして数年間は、間をあけず作品を書かなければ忘れられると焦っていました。でも、一緒に十年間書き続けてきた小説家仲間にしっかり十年分の読者がついているのを見て、書くことや読むことは点じゃなくて線なんだなとやっと感じられるようになりました。その影響か、今は、より文章自体の大切さを重視する気持ちが強くなっています」
デビュー当時から変わらない鮮烈で瑞々しい描写や会話文は、円熟味も加わり、より読みごたえを増している。
「今回は特に多いですが、会話文は最も気を遣う部分のひとつです。わたしにとって会話文は、辿り着いてほしい場所に単語単位で登場人物を運んでいく作業というか、情報を明かす順番を間違えられないパズルみたいなものなんです。いずれ書くだろう会話のシーンのために、それまでにこの人にはこういう経験をさせておこう、みたいにプロットにも大きく影響します。もしかするとそういうディテールを楽しんでいただく余裕はない時代かもしれないけれど、そこにこだわることはやめられないので、性癖なんだと思います」
同じ映像の世界でも、真逆の道を選んだ二人の立ち位置は、世間からの評価や業界の直面する状況の変化などで、互いに抜きつ抜かれつ、目まぐるしく変わる。現代の世界が求める「スター」とは何かを描いた渾身の一作だ。
あさいりょう 一九八九年、岐阜県生まれ。二〇〇九年『桐島、部活やめるってよ』で小説すばる新人賞、一三年『何者』で直木賞、一四年『世界地図の下書き』で坪田譲治文学賞受賞。
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