
――「まんまこと」シリーズの第8弾『いわいごと』が発売になりました。江戸の町名主の跡取り息子・高橋麻之助がさまざまな揉めごとを解決していくこのシリーズですが、やもめの麻之助に縁談が次々と持ち込まれ、それに麻之助が振り回されるのも読みどころの一つになっています。
江戸時代の結婚は、いま以上に家と家との結びつきという面が強かったので、結婚する二人だけでは済まないことも多く、大変だったと思います。特に麻之助は町名主の跡取りという立場なので、周囲も放っておいてくれません。それに、当時のお見合いは、ほとんど相手を知らないまま話がどんどん進んでいくこともありました。結婚が先に決まって、それから相手のことを知っていくということも多かったんです。
――最初の妻・お寿ずを亡くした麻之助もようやく元気が出てきて、前巻『かわたれどき』では料理屋の娘・お雪と縁談の話が出ます。若いお雪は、麻之助のことを「おじさん」と呼んで傷つけたりしながらも(笑)、いい関係に見えたのですが……。お雪は洪水で記憶を失い、麻之助のことも思い出せなくなってしまいます。
お雪が縁談の返事をできずにいる間にも、麻之助には新しい縁談の話が来ます。これは現代の恋愛にも通じるところがありますが、このような関係を宙に浮いたままにしておくと、どうにもならなくなってしまいますよね。そこで麻之助の父・宗右衛門は、お雪に麻之助の裁定を手伝ってみるよう提案したわけです。この二人の関係がどうなるか最初から決めていたわけではないのですが、書いていくうちに、今回の流れになりました。
昇進に縁談に、今回も悪友三人組は大忙し
――『いわいごと』には6編が収録されていますが、今回、相馬小十郎が定廻り同心から吟味方与力に昇進することになり、その後継ぎの吉五郎も大変な目に遭います。
定廻り同心から与力に昇進することは滅多になかったようですが、ひとつだけ、そうした例を資料で見つけたんです。それだけ珍しいことが起こったら、周囲で事件も起きるだろうと考えたのが「吉五郎の縁談」と「八丁堀の引っ越し」でした。この昇進にあたっては、小十郎の一人娘・一葉も大忙し。与力の屋敷にやって来る客をまず玄関でさばくのは、家の女性の仕事だったんです。当主として家を継ぐのは男性ですが、与力でも、屋台などの客商売でも、奥さんの役割はとても大きかっただろうと思います。
――「名指し」では、町名主を失った四町を麻之助がしばらく預かることになりますが、麻之助の、お気楽でいるようで、実は頼りがいのあるところが発揮されていますね。
発揮されるといいのですが(笑)。支配町の人たちも、そんな麻之助にやいのやいのと言うのが楽しいんだと思います。町名主の支配町は、きっちりまとまっていたわけではなく、いろんな事情で変わることもあったようなので、今回はそんな騒動を描いてみました。麻之助も吉五郎も、跡取りとして成長してきているのかもしれませんね。
――本作の結びとなる「えんむすび」「いわいごと」で物語は急展開を迎え、麻之助の縁談は意外な形にまとまります。
「まんまこと」シリーズは、私が書いているものの中でも時間の流れと物語の動きが早いんです。悪友三人組の中でも、八木清十郎はすでに妻を迎えて子どももいますから、いずれ、麻之助や吉五郎も新しい家族を持つことになると思います。そんな彼らのこれからを、読者の皆様にも見守っていただけたら嬉しいです。
――今年で作家デビュー20周年を迎えられますが、これまでの作家生活を振り返っていかがですか。
あっという間でした。気がついたら20年も経っていたという感じです。一番大変だったのはデビューしてから2作目を出すまでで、勝手に書いて、書き上げたら編集者に読んでもらって、原稿がたまったから一冊にしてもらって……という感じでした。逆に、新しいシリーズを増やすのには苦労しませんでしたね。私は先に漫画でデビューしたので、まずは短編を一本載せてもらって、それで描けそうならそこからシリーズ化していくということができないと、お仕事ができなかったんです。
今でも、新しいシリーズを考えるのは楽しいのですが、あんまり増えてしまうと書くのが大変で(笑)。
――今年から、オール讀物新人賞の選考委員も務められます。
新人賞の選考委員は過去に一度だけ担当して以来なので、楽しみにしています。応募者へのアドバイスは、なるべく締切の少し前に仕上げて推敲をしましょう、ということでしょうか。そのほうが確実に仕上がりがよくなりますから。まずは読者として、どんな応募作が読めるのか楽しみにしています。
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