2015.07.10 書評

寝ても覚めても「まんまこと」のことばかり考えている

文: 吉田 紀子 (脚本家)

『ときぐすり』 (畠中恵 著)

「おいおい、清十郎ってばさあ。聞いたかい」

「何をだい、麻之助」

「何やらこの本の解説を、脚本家が書くつもりらしいよ。大丈夫かねえ」

「え。脚本家と言えば、我らの時代で言えば、戯作者ではないのか!」

「けどなんたって、この脚本家ときたら、朝寝坊だし、筆不精らしいんだよ。ちょっとあたしに似てないかい。ふふふ」

「戯作者が筆不精などと、ふざけたことを!」

「まあそう怒るなよ吉五郎。二百年も時がたてば、そんなもんだろう」

「でさ、ごねたらしいよ。私はドラマで手いっぱいで、とても解説なんて書けませんって」

「しょうがないねえ。だから平成なんて世に生きている者は、信用がならないんだよ」

「本当だねえ」

「ホントだよ」

「まったくだ!」

「まあでも一応さ。書かせてみようよ。解説とやらを」

「畠中先生が怒らないといいがなあ」

「怒るわけがないだろう! 先生はお人が出来ているんだっ!」

「って、お前が怒ってどうすんだよ。吉五郎。あいてっ! 殴るなよぉ」

        *

 というわけで、この数カ月、寝ても覚めても「まんまこと」のことばかりを考えている脚本家でございます。

 NHKの木曜時代劇で「まんまこと」シリーズをドラマ化するにあたり、どういうわけか私に、白羽の矢が立った。実は私、時代劇を書くのは二回目、しかも連ドラは初めてという、きわめて時代劇初心者。右も左も分からず、辞書、参考書、資料、図鑑などと首っ引きで、しかも分からないことは、時代考証の先生やら、原作の畠中さんにまで、しつこく質問を浴びせながら、ひいひい言って書いております。現在、全十話中の九話目執筆中。佳境です。こう書くとなんだか、臨場感あるでしょう。

 とにかく、現代劇と違って、衣食住、言葉づかいから習慣まで、いちいち分からない。恥を忍んで告白すれば、町名主がどういう仕事をしているかも知らず、町人たちの揉め事を裁定しているなんて、この小説を読み、初めて知りました。そんな町名主の仕事に目をつけた畠中さん、そうして次々と、当時の江戸ならではの習慣や出来事を題材に、一話完結のミステリー仕立てで、物語を紡いでいくその手腕には、驚くばかりです。そして、お気楽な麻之助、色男清十郎、石頭の吉五郎、まっすぐなお寿ず、我慢の人お由有と、キャラクターも見事に確立されていて、台詞を書くのが楽しかったことは、冒頭の三人のやりとりを読んでいただければ、お分かりになるかと思います。

 さて、「まんまこと」シリーズも今回の『ときぐすり』で、四冊目。私が担当しているドラマは、『まんまこと』『こいしり』『こいわすれ』『ときぐすり』の四冊から十篇を選ばせていただき、こちらも小説と同じように、一話完結風の物語に仕上げています。どのエピソードを選んだかは、見てのお楽しみ。とにかくドラマを見ている人がわかりやすく、登場人物に感情移入できることを念頭において、脚本化しました。

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ときぐすり
畠中恵・著

定価:本体590円+税 発売日:2015年07月10日

詳しい内容はこちら  『ときぐすり』特設サイトはこちら
「まんまこと」シリーズ 特設サイトはこちら



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