もちろん、対立軸などなくてもよいではないかという意見もあるかもしれない。とりわけ、人々を分断するような対立軸は歓迎されないし、「社会が分断されている」という表現は、最近では米国大統領選の影響もあって、ほぼネガティブな意味合いでしか用いられない。対立は無いに越したことがないという見方が大勢を占める社会で、分断の効用などということについて論じれば、すぐに何を言っているんだという批判が飛んでくるだろう。
しかし、安定の原因も政治が活性化しない理由も、日本特有の分断のかたちにあるのだとすれば、私たちはもう少し価値観の違いについて掘り下げて考えてみる必要がある。そこで、本書では調査で得られたデータをもとに、幅広い視点から日本社会を読み解きたいと思う。
私たちはどれだけ日本社会を実際に「知って」いるのか。経験と勘に基づく印象論で語ることなく、かつ不必要に難解になることなく、ある意味で愚直に客観的にファクトを追求してみようというのが本書の試みだ。読者の方々には、できれば初めから読んでいただきたいが、気になる章があれば、テーマごとに読んでいただいてもかまわない構成としている。
第1章は、価値観調査の意味とは何か、その結果からどのようなことが分かるのかを解説する理論編である。日米の結果を比較しながら、日本における分断の特殊性を論じる。
第2章は、日本人価値観調査の分析を前提に、各政党が得ている票の性質を説明しながら、野党が政権を奪取するためにはどのような選択肢がありうるのかを検討する。
第3章は、人々がどれだけ現状を打破したいと思っているのか、どれだけ改革を目指しているのかについて、教育問題を切り口に格差問題に至るまでを論じていく。
第4章は、世論の「本音」と「建前」を、投票行動と政権支持率を題材に考察する。
第5章は、今後の日本社会がどう変化しうるのかについて考えるため、女性問題と若者の価値観を中心に社会の意識を読み解く。
第6章では、他の先進諸国に目を向け、保守と革新に分断された価値観について歴史的に整理する。
最後の第7章では、他の先進諸国と比較した時の日本独自の特徴を炙り出し、安定と停滞の原因に再び目を向ける。
私はよく社会的課題を素材として扱い分析するが、ときには解決策に乏しいと批判されることがある。実際には、分析を読めば「こうしたらいいのではないか」という示唆は含ませているのがわかるはずだ。私が抑制的な書き方をするのは、頭から特定の思想を押し付けることは良くないと思っているからである。ファクトを見極めた後に、判断をするのは読者の方々一人ひとりに他ならない。
それでは、知っているようで知らない日本社会の分析をしてみることにしよう。
(「はじめに」より)
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