書評

ハラスメントにクレーマー、アルバイト生活…地方議会のキツすぎる現実とは

文: 葉上 太郎

葉上太郎が『地方議員は必要か 3万2千人の大アンケート』(NHKスペシャル取材班 著)を読む

『地方議員は必要か 3万2千人の大アンケート』(NHKスペシャル取材班)

 かつて議員になるためには「地盤・看板・カバン」が必要とされた。「後援組織・知名度・選挙資金」である。しかし、都市部の選挙ではこの三要素が通用しなくなりつつある。

 その理由が本書に解説してある。「マンションはオートロックのため、国民の声を直接聞くことが出来ず苦労しているのが現状です。新住民の増加に伴い、ポスターの良し悪しで当選してしまう現実があると思います」(東京都内の60代男性区議)という声を紹介しながら、NHKのお膝元の渋谷区議選で「凝りに凝っ」たポスターがズラリと張り出されるのは、そのせいだと分析してある。

 私も投票日にポスター掲示板の前で頭をひねる有権者の多さが気になり、調査したことがある。ポスターの顔、経歴、キャッチフレーズで選んでいる人が圧倒的に多かった。地道に有権者を回る選挙はキツイ、汗だくになってキタナイ、迷惑がられて怒鳴られることもあるのでキケンな面もある。典型的な3Kとされる選挙が、顔・経歴・キャッチフレーズの新3Kに取って代わられつつあった。

 私達はどれだけ地方議員のことを知っているだろうか。報道される不祥事や権力闘争から「異界」と思い込んでいる人が多いのではないか。もちろん顔写真入りのポスターを張りまくっても恥ずかしくない人の集まりだ。しかし、議会では現実社会での出来事が極端な形で起きているにすぎない。それを全国の地方議員3万2450人に対するアンケートで浮かび上がらせたのが本書である。

「ドン」と呼ばれる議員がいるように、「ボス」の存在が議会を歪めているとする声が載っている。だが、ボスは会社や趣味のサークルにもいないだろうか。「別の議員のセクハラ・パワハラがある」と答えた議員は15%いた。割合の問題はあるにしても、身近な社会に似た傾向はないか。

 アンケートの回答を読み進めると、議会を通して日本社会が見えてくる。

 理想と現実のギャップに意欲を失う議員、町村レベルの報酬では暮らしていけないとアルバイトをする議員、首長のニラミにひるんでしまう議員、賛成した巨大開発で自治体の借金が過大になり後悔する議員、有権者からのクレーマーまがいの要求に悩む議員、票の力を借りた支持者にセクハラならぬ“票ハラ”を受ける女性議員……。

「声」に描き出される議員の姿は、極めて生々しい。小池百合子都知事が目の敵にした都議会のドン、内田茂・元都議も取材に応え、その述懐に一章が割かれている。メディアに出たがらない人だけに一読に値するだろう。

 これほど大規模なアンケートは資金と人材が豊富なNHKだから可能だった。極めて貴重な声の集積だ。一方、6割もが答えた背景には現状への危機感がある。民主主義崩壊の現場とでも言える実態は、他人事として読むべきではない。


『地方議員は必要か 3万2千人の大アンケート』
2019年4月に放送されたNHKスペシャル「崖っぷち!? わが町の議会」の際に実施した一大アンケートを書籍化。60%、2万人近くの地方議員から回答を得たという。報道局選挙プロジェクトのメンバーを中心に、地方局の記者らによるルポも収めた。


はがみたろう/地方自治ジャーナリスト。全国紙記者を経て独立。地方自治の観点から、政策・事件を取材。著書に『日本最初の盲導犬』。

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地方議員は必要かNHKスペシャル取材班

定価:本体820円+税発売日:2020年06月19日


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