- 2021.09.09
- インタビュー・対談
ニュータウンに巣食う新興宗教団体の謎に迫る――『邪教の子』(澤村 伊智)
「オール讀物」編集部
Book Talk/最新作を語る
出典 : #オール讀物
ジャンル :
#エンタメ・ミステリ
ニュータウン拠点の新興宗教団体に迫る
日本ホラー小説大賞〈大賞〉を受賞したデビュー作『ぼぎわんが、来る』以降、戦慄のホラー小説を次々と世に送り出してきた澤村伊智さんの最新作は、ニュータウンを舞台にした、新興宗教をめぐる小説だ。
「ぼくが育ったのが、まさにできたばかりのニュータウンだったんですね。そこの新築のマンションに住んで、学校にもマンション住まいの子が何人もいて。でも、大学卒業して実家を出るまでに、街は発展せず、さらに二十年たって衰退していくまでをリアルタイムで見ていました。その感覚が作品にも反映されていると思います」
ニュータウン「光明が丘」で家族と暮らす少女・慧斗(けいと)はある日、街へ越してきた茜と出会う。茜は、新興宗教「コスモフィールド」にすがる母親の支配のもと苦しんでいた。慧斗は、同級生の祐仁(ゆうじん)とともに、茜を救い出そうと試みる。
「僕らの世代は思春期にオウム真理教の事件があったり、大学でも、普通のサークルを偽装して、カルト団体が勧誘していたりということもありましたね。今回は資料をいろいろ読んだり、実際に新興宗教の集まりにいくつか潜入取材もしたのですが、そこで過激な思想を主張しているところは意外とない。その分、普通に暮らしに溶け込んでいて、まわりにも良くも悪くも受け入れられているのも感じました」
慧斗の手記として書かれる前半から一転して、物語は異色グルメ番組を制作するディレクター・矢口の視点に切り替わる。
「真ん中でまっ二つに分かれるような話を書きたいという気持ちはデビュー時からずっとあったものです。囚われのお姫様を助ける前半と、外部から新興宗教を見たらどうかというのを書いてみたくて、この構成になりました」
矢口もまた、新興宗教にからめとられた人生を送ってきた一人であった。その新興宗教「大地の民」の取材の糸口をつかんだ矢口は、脱会信者の取材を重ね、ついに、拠点であるニュータウン「光明が丘」へとたどり着く。そこはまさに、かつて慧斗が茜を救い出した地であった。いったい、光明が丘では何が起きていたのか。そこで矢口が出会った驚愕の真実とは?
「今回の『邪教の子』というタイトルは、書き出しのときに適当に打ち込んでいたものがそのまま作品名になったんですが、書き進めるうちにこのタイトルを回収する方向へプロットが変わっていきました。読み手としては、タイトルが作品とはまると嬉しいので、そこを意識した部分はありますね」
さわむらいち 一九七九年大阪府生まれ。二〇一五年『ぼぎわんが、来る』(受賞時のタイトル「ぼぎわん」から改題)で日本ホラー小説大賞〈大賞〉を受賞しデビュー。著書多数。