八
飯田邸を訪問してからしばらくの間、わたしは何も考えられなくなった。茜のことは勿論、光明が丘のことも、それ以外のことも全て。
夜は眠れず、朝は起きられず、食事も味がしない。学校に行っても上の空で、先生に何度も怒られたけれど、彼女の憤怒の表情も、金切り声も、とても遠くに感じられた。
茜に拒絶された。
わたしは茜を傷付けた。
その衝撃があまりにも大きすぎて、わたしの心の灯は吹き消されてしまった。世界から否定されているような気がした。
大袈裟にも程がある反応だった。一人の人間に突っぱねられたところで、何がどうなるわけでもない。だが、それは今だから言えることだ。あの頃のわたしは驕っていた。
闇夜の国から這い出したばかりの、当時のわたしは解放感に浸り、万能感に酔っていた。だから茜を助けようとした。偶々目に留まった、不幸そうな人間に手を差し伸べた。自分では善意だと思っていたが、実際のところは傲慢だっただけだ。
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