2021年5月30日、第8回高校生直木賞の本選考会が開催されました。32校の代表者が全国からオンラインで集まり、伊吹有喜さんの『雲を紡ぐ』と加藤シゲアキさんの『オルタネート』の2作を受賞作として決定。高校生直木賞として初の2作同時授賞が決まりました。小説について熱く語り合った高校生たちの感想文を、3回にわけて掲載します。第2回は渋谷教育学園渋谷中学高等学校、麻布高等学校ほか、11校をご紹介します。
加藤学園暁秀高等学校(静岡県)駒走旬星「本を多角的に読む方法」
今回の高校生直木賞は私の読書観に大きな影響を与えてくれました。今までは自分の好きなジャンルばかり読んできましたが、今回は指定された本を5冊読み、それを自分なりに評価しなければいけません。シンプルな気持ちで面白かったのを選ぶのか、1つの本としての完成度が高いものを選ぶのか。そもそも「高校生直木賞」とは何なのか。
そんな風に課題本と向き合う中で、私はこれまでの自分自身が読書に対して一線を引いていたのかもしれないと思うようになりました。
読書は大好きだけれど、どうしてもどこか一歩下がって楽しんでしまうというか、物語に心から入り込めないなあと思うことがありました。これは小さい頃にはなかった感覚で、高校生になってから特にそう感じるようになったんです。おそらくこれは私が大人になった証拠であり、自分の中でのアイデンティが確立されてきたことで物語の主人公との間にいつの間にか壁ができてしまったのかなと思います。
しかし、高校生直木賞を通して本好きな仲間たちと話し合ううちに本を多角的に楽しむ方法を学ぶことができました。参加者たちの読書の物差しは千差万別。面白ければそれでいい。物語のメッセージ性が重要だ。表現の美しさが良い。どこに注目するかは、きっと読んだ人が今まで歩んできた読書人生によるのでしょう。
「オルタネート」と「雲を紡ぐ」がダブル受賞した今回ですが、雲を紡ぐを推していた私にとっても嬉しい結果になりました。それだけこのディスカッションは私にとって刺激的で、楽しくて、新しい価値観を与えてくれました。「オルタネート」の良さはその疾走感と青春の瑞々しさにあります。そして「雲を紡ぐ」は表現の綿密さと、王道でありつつも確実に読者の心を打つ美しさがあります。
ただ文章を目で追うだけでなく、自分なりの考え方を模索しそれを他人と共有することで、色々な読書の楽しみ方が見えてきました。
本と私の関係性はいつまでも同じように特別なものだと思っていましたが、やはり少しずつ大人になっていく中で、その付き合い方も変わってきていたのです。そんな時に高校生直木賞は私に「成長してからの本の楽しみ方」を教えてくれました。読書は自分を登場人物に重ねるだけではなく、いろいろな物差しを使って楽しむことができて、だからこそ、これからもずっと本を読み続けていきたいと強く思うことができました。
本当に素晴らしい経験であり、発見でした。貴重な機会をありがとうございました。
藤枝明誠高等学校(静岡県)亀山朋美「今回の高校生直木賞の良かった点と改善すべき点」
今回の高校生直木賞の良かった点と改善すべき点について
<良かった点>
・昨年と比べると話し合いが活発になった。
・発言をする学校としない学校の差を減らそうとする姿勢を感じられた。
・直木賞候補作がどれも良かった。ただし、短編集が多いように思う。
<改善すべき点>
・チャットでも意見をまとめて発言している学校が多かったので、司会者が意見を拾うなど有効活用をもっとすべき。
・オンラインならではの学校側の圧もあるかもしれないが、一番推していた本が予選落ちする場合も想定して5作品全てをもっと議論してほしい。
・議論の話題が異なり、平行線のままになってしまっていたこと。
・本選の「雲を紡ぐ」と「オルタネート」の議論の時に、「雲を紡ぐ」は「文章がきれい」という意見で、「オルタネート」は「おもしろい」という意見が出ていた。どちらの意見も主張はするものの平行線のまま終わってしまったように思う。「雲を紡ぐ」ではどこがおもしろいと思うか、「オルタネート」では文章がきれいだと思う部分がなかったか議論をしてほしいと思う。具体的にページ数や行数についても発言があればより議論がおもしろくなると思う。
静岡県立磐田南高等学校(静岡県)栁岡菜々子「画面を介してなお、肌で感じる熱意」
読書が好きであっても、読んだ時に自分の心に生まれたものを言語化して、さらには会ったことのない人とそれを交わす、ということを経験した事のある人は少ないだろうと思う。実際、それらはとても難しい。まず言語化がハードルとなる。自分の感じたこと、考えたことをどのように表現すれば相手に伝わるのか、高校生直木賞全国大会に参加することになった時、そのことが私を悩ませた。さらには、「伝わる」「伝わらない」の以前に「他人にどう受け止められるか」が怖かった。臆病になってしまっていた。
しかし、それらは杞憂だった。本大会が始まる直前まで、ド、が着くほど緊張していた私は他の参加者の熱意に圧倒された。画面を介してもなお、肌で感じられるようだった。自然と手を挙げていた。緊張はどこかに去っていて、何より、「楽しい」と心から感じた。率直な自分の意見を発表できたのはそういった雰囲気があったからだと思う。誰ひとりいい加減な人はおらず、他者の意見を受け止め、真剣に考えていた。チャットでも活発な討論がみられ、オンラインだからこそ出来たこともあった。
本当に、心の底から楽しかった。安っぽい表現にはなるが、一生忘れないだろうな、と本気で思う。
この場を借りて、高校生直木賞を運営されている方々、参加させてくれた先生、それに一緒に討論してくれた他の参加者に感謝を伝えたい。
■渋谷教育学園渋谷中学高等学校(東京都)高野知宙「作品を語り合うとは、月を眺めること」
■麻布高等学校(東京都)飯尾天翔「小説の奥ゆかしさの正体」
■田園調布学園高等部(東京都)田口瑛美莉「読書とは何かを考えるきっかけに」
■国際基督教大学高等学校(東京都)籠谷悠里「高校生の直木賞の難しさと面白さ」
■都立国立高等学校(東京都)川島美桜「必ずしも一貫した一つのテーマがあるわけじゃない」
■横浜富士見丘学園高等学校(神奈川県)佐々木愛衣「高校生直木賞で得た2つのこと」
■向上高等学校(神奈川県)會澤さとみ「新しい本との向き合い方」
■横須賀学院高等学校(神奈川県)柏木愛美「選定基準がない難しさ」
■加藤学園暁秀高等学校(静岡県)駒走旬星「本を多角的に読む方法」
■藤枝明誠高等学校(静岡県)亀山朋美「今回の高校生直木賞の良かった点と改善すべき点」
■静岡県立磐田南高等学校(静岡県)栁岡菜々子「画面を介してなお、肌で感じる熱意」