今年5月で8回目となる高校生直木賞。前年の参加校の生徒たちに呼びかけて、作家・辻村深月さんを囲むオンライン読書会が1月9日に行われた。
課題作となったのは、オール讀物2021年1月号に辻村さんが寄稿した135枚の中編小説「2020年のロマンス詐欺」。東北の高校を卒業した加賀耀太は、東京の大学に進学し、一人暮らしの新生活を始めたものの、コロナで授業も行われない。孤独感に苛まれ、経済的にも苦境にさらされる中、ワケありのバイトに手を出してしまい、ある女性とSNS上で交流することに……。
高校生の間でも絶大な人気を誇る辻村さんと対話できるとあって、開始予定時間まで5分を切った頃には次々とZoomへのアクセスが増え、たちまち参加者は70人超に。控室で待機していた辻村さんも「こんなに多くの人が」と驚いていた。
冒頭、司会者よりアンケート機能を使って高校生にいくつか質問が。「『オール讀物』という小説誌を知っていますか?」という問いに対しては、「まったく知らなかった」が32%、「読み方がわからない」が5%という結果。「以前、“オールつけもの”と読んだ人もいました」という司会の言葉で笑いが起こり、高校生の緊張もほぐれたようだった。
高校生たちは年齢が近い主人公の物語をどう読んだのだろう。何人もの生徒から矢継ぎ早に手が挙がり、「小説を読むのは久しぶりだったが、一気に読めた。一歩間違えたら自分も耀太と同じような境遇になっていたかも。非日常が日常になってしまう恐ろしさを感じた」「コロナ禍という現在進行形の物語。現実にも詐欺やDVが増えているという話をよく聞く中、この物語のラストのような希望が見えたら」など、感想が次々に語られた。
辻村さんが登場すると、オンライン越しにもかかわらず大きな拍手に包まれた。執筆の動機を聞かれ、「直木賞受賞の短編集『鍵のない夢を見る』では放火や誘拐といった犯罪を描いたが、詐欺を扱わなかったのが心残りだった」。新型コロナをテーマにした点については「コロナ禍の現在に生きる私たちは、歴史の目撃者だと思う。皆さんの子ども世代が成長したとき、2020年にステイホーム期間があったことや、多くの学校が一斉休校になったことにリアリティを持てないかもしれない。だからこそいま小説としてコロナ禍を描くことは大切だし、作家としてチャレンジしてみたいと思った」と語った。