村上豊さんの絵が好きだったのである。
三十五年かそれ以上前、『陰陽師』の絵をどなたに描いていただくかという話になった時、
「ぜひ村上さんに」
と、ぼくはお願いした。
村上さんの筆は変幻自在で、それが人であろうが妖怪であろうが、家であろうが草木であろうが、動物、花であろうが、森羅万象、描くすべてのものに精霊の如きものが宿っているのである。これはまるで縄文世界そのもののようだ。
これほど自由に筆を運べる描き手は、そう何人もいないのは、皆さん御承知の通りである。
『陰陽師』という物語に出会えたことは、書き手としてのぼくにとって、なんとも幸せなことであった。そして、もうひとつの幸せは、村上豊さんという花咲か爺さんの如き、秀れた描き手に出会えたことであろう。
人のみならず、村上さんの描く妖怪は、いずれも可愛くて、チャーミングで、だれであれ何ものであれ、彼らがその生を心から楽しみ、愛しているのがわかるのである。
描き手の中に、そのような愛がなければ、それは絵として出てくるものではない。
どのような物語であれ、村上さんが筆を走らせると、そこに花が咲く。だから花咲か爺さん。
露子姫の可愛らしさを見よ。
本物語で言えば、顔に咒(しゅ)を書かれている善智の顔を見よ。
いいなあ。
まことによろしく、この顔だけで、善智のことがたまらなく愛しくなってきてしまうではありませんか。
二〇二二年七月二十二日、永眠。
画家としての人生をまっとうされました。
おみごと。
ものを作る、あるいは描く、物を語る仲間として、かくありたし。
まことに、かくありたし。
二〇二二年十一月吉日
小田原にて――
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