「科学」と「人間」の組み合わせがおもしろい
10月から放送されているNHKドラマ10『宙わたる教室』。
満足度の高い秋ドラマランキング2024の上位に選ばれているこのドラマは、定時制の東新宿高校が舞台。この学校の新任理科教師・藤竹叶を演じる窪田正孝さん、岳人を演じる小林虎之介さん始め生徒も配役がぴったりで、毎週の放送が楽しみです。第4話ではイッセー尾形さんが演じる七十代の生徒、長嶺がクラスで自分の半生と、本当は勉強が好きで高校に進学したかったけれど、家族のために中学を卒業して働きに出た妻のことを語るシーンが秀逸で、独白シーンに泣かされました。
ドラマ内で科学実験が行われているのもいままでのドラマとは一味違い、ドラマのホームページには、〈科学部通信〉として実験レシピまで紹介されています。
実はこのドラマの原作、伊与原新さんの『宙わたる教室』は、この夏の第70回青少年読書感想文全国コンクール課題図書(高等学校の部)に選ばれた作品で、多くの中・高校生から支持されています。原作を読んだ生徒からは、〈藤竹先生の熱血指導教師ではないけど、静かに芯を持って生徒と向き合っている姿が印象的だった〉〈科学と人間の組み合わせがおもしろく、自然に感情移入できた〉という感想が寄せられています。
年齢も育ちも違う中で、定時制高校に通わなければ出会わなかった高校生と有望な研究者だった藤竹が、科学部の活動を通して成長し、さまざまな化学反応を起こしていく原作のストーリーが、ドラマでも忠実に描かれていて、ドラマを観てから原作小説を読むことでより深い感動が増します。もちろん原作小説が好きな方にも安心して観ていただけるドラマです。
物語のもとになった「実話」が存在!?
さらにあとがきを読んでびっくりしたのですが、この物語のもとになった実話が存在します。2017年に開催された日本地球惑星科学連合2017年大会「高校生によるポスター発表」で大阪の定時制高校が優秀賞を獲得し、それを知った伊与原先生が着想を得て、小説を書きはじめたそうなのです。巻末に記載された参考文献からも、小説内に出ている実験について詳しく知りたい人が調べられるようになっています。
高校を舞台にした部活小説はたくさん出版されていますが、理系小説は少なく、定時制高校が舞台なのは本当に珍しい。科学が好きな人にも、理数系は苦手だけれども小説が好きという人にも、どちらもお薦めできる青春科学小説です。
高校の図書館で司書をしている私は、この夏、生徒と共に、作者の伊与原新先生の講演を聞くことができました。伊与原先生は東大大学院で地球惑星科学を専攻された後、大学で教鞭をとりながら作家デビューされた異色の経歴の持ち主で、講演では作品のエピソードだけでなく、研究者の仕事の話や理系の勉強法も飛び出して、とても盛り上がりました。
講演のあと、生徒からは原作の内容も含めてたくさん質問が出たのですが、自分も作家になりたいという生徒が最後に質問した「創造するってどういうことでしょう?」という問いに、伊与原先生が「創造は0.999...を1にすること」と答えられた時には、言葉の深さにドキッとしました。
岳人たちの初めての学会発表会から6年後が舞台になっている、伊与原先生の小説のシーズン2の連載も始まり(「オール讀物」2024年11・12月特大号に掲載)、高校図書館ではますます『宙わたる教室』が盛り上がっています。
木下通子 (きのした・みちこ)
埼玉県立浦和第一女子高等学校図書館司書。「みちねこ」として、本と人をつなげる活動を展開中。社会教育士・ビブリオバトル普及委員・JPIC読書アドバイザー29期、埼玉大学非常勤講師(図書館学)。著書に『読みたい心に火をつけろ!』(岩波書店)など。
みちねこサイト https://sites.google.com/view/michineko
INFORMATION
放送中:2024年10月8日(火)スタート〈全10回〉
総合テレビ 毎週火曜 夜10:00〜10:45
BSP4K 毎週火曜 午後6:15〜7:00
[再放送] 総合テレビ 毎週金曜 午前0:35〜1:20 ※木曜深夜
配信中:AmazonのPrime Video(最新話はNHK放送の翌週水曜0:00に公開)
原作:伊与原新 「宙わたる教室」
脚本:澤井香織
音楽:jizue
主題歌:Little Glee Monster「Break out of your bubble」
出演:窪田正孝 小林虎之介 伊東蒼 ガウ
田中哲司 木村文乃/中村蒼 イッセー尾形 ほか
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