〈「竜馬が襲われて死ぬシーンが本当に嫌いなんです」歴史好き・山崎怜奈と漫画家・鈴ノ木ユウが語る『竜馬がゆく』〉から続く
司馬遼太郎没後30年の節目に、あらためて『竜馬がゆく』が注目を集めている。今年2月にはコミック『竜馬がゆく』15巻も発売された。そんな中、「歴史好き・坂本龍馬好き」で知られる山崎怜奈さんと、コミック版の作者・鈴ノ木ユウさんの対談が実現。前編では、原作への思いや作品づくりの舞台裏について語り合ってもらった。後編では、龍馬ゆかりの高知を訪ねて気づいたことや、史実の坂本龍馬と「鈴ノ木版竜馬」、それぞれの魅力にも話が及んだ。
取材で出会った土佐の風土
──「週刊文春」の連載がスタートするまでにテーマやキャラクター造形に苦心されたことがよくわかりました(※前編参照)。竜馬の故郷、土佐藩があった高知も訪ねたのですか?
鈴ノ木 描きはじめる前に1回、連載中に2回いきました。高知県ってすごく漫画が盛んなところで毎年大きなイベントが開かれるんです。
山崎 『アンパンマン』のやなせたかし先生も高知県出身ですよね。
鈴ノ木 そうそう。やなせ先生が審査委員長だった「まんが甲子園」(全国高等学校漫画選手権大会)はもう30回以上もつづいて、僕も審査員に呼んでもらいました。「こうちまんがフェスティバル」という漫画ファンが集まるイベントもあって、何がすごいって登壇したらステージドリンクが日本酒。
山崎 さすが(笑)。
鈴ノ木 ステージにあがる前もどんどん飲まされる。おちょこも天狗の顔とか、指で穴をふさぐのとか。
山崎 置けないやつですね。
鈴ノ木 ステージ上ではもうベロベロ(笑)。
山崎 高知の空気はいいですよね。温暖で、お酒もカツオも美味しいし、人も明るくて。すごく好きです。
鈴ノ木 僕はすっごい出不精なんですけど、土佐を訪ねてよかったと思います。
山崎 長崎も竜馬ゆかりの地ですけど、行ってみたらすっごく坂が多くてびっくりしました。丘の上にある観光スポットが多くて、香港の地形に似ているかも。グラバー邸までは斜行エレベーターがありますからね。坂本龍馬たちは、こんな急勾配を登り降りしながらさらに全国各地を奔走してたんだなと思いました。どんな脚力してたんだって(笑)。
鈴ノ木 そんなに急な坂なんだ。僕はまだ長崎を見てないから、取材で訪ねるのが楽しみです。山崎さんは歴史に詳しいから、名所旧跡をめぐってもやっぱり視点が違うんでしょうね。
山崎 自分の足で歩くといろいろ気づきますよね。お城に行っても、天守を目指しながら「これは攻略するの無理ですわ」と思ったり。
鈴ノ木 攻略……(笑)。
山崎 この橋を落とせば攻め口をふさげるとか、ここは死角だから弓は飛んでこないなとか。築城の妙を見るのが好きなんです。
鈴ノ木 ぐ、軍師様なんですね。
山崎 同じ歴史好きでも見るポイントって違いますよね。武将なら戦(いくさ)が強いと人気を集めますけど、私は賢さや立ちまわりの巧さ……無駄な血を流さないでサバイブしていく知将に惚れます。
鈴ノ木 惚れちゃうんだ(笑)。
山崎 坂本龍馬は知略にも富んでいるうえに、命がけで動きまわっている。「命が危ないって理解してます?」と聞きたいぐらい体を張って、いろんなところへ出かけ、たくさんの人に会っています。相手の考えをどんどん取り入れ、柔軟に考えを変えていく……すごく好きなところです。
直筆の手紙から浮かびあがる人物像
── 鈴ノ木さんが歴史に興味をもたれたのはいつ頃からですか?
鈴ノ木 子どもの頃、おじいちゃんとテレビの時代劇ばかり観てたんですよ。歴史というより人情ばなしですね。歴史ものでは、小学生のときに観た中井貴一さん主演の大河ドラマ『武田信玄』。僕は山梨県出身なのでのめり込みました。
そこから戦国時代に興味をもって、理科の自由研究で日本地図に戦国武将の領地を描いていったんです。武田信玄とか上杉謙信とかの領地。先生は「すごいね」と褒めてくれたあと、「でも、これは理科じゃなくて社会科だ」と言われました(笑)。漫画家をめざしたのも、歴史ものが描きたかったからです。
山崎 もともとお好きなんですね。高知県の坂本龍馬記念館で、手紙は見ました? 乙女姉やんに送った、紙の面積ギチギチに書いてるの。
鈴ノ木 見ました見ました。字の大きさが全然違うやつ。
山崎 そうそう。最初は堂々と綴ってるのに、最後のほうはスペースが足りなくて、ちっちゃい字になる。すごく子どもっぽい。まだ言いたいことがあるからもうちょっと……みたいな名残惜しさが字に表れてる。直筆の手紙が残ってる人は、文字から性格がわかりますね。
鈴ノ木 たしかにそうです。桂小五郎の字はすごく丁寧ですし。
山崎 わかります。あの時代は「もう無理かもしれない」と思ったら、美徳として切腹する人が多いなかで、手を変え品を変え、名前を変えて逃げまわる。自分のやりたいことを成すために、生きつないでいく。彼は自分を俯瞰して見ている気がします。
「鈴ノ木版竜馬」の魅力
鈴ノ木 坂本龍馬の手紙を読むと、必ずしも熱血漢ではないという印象があります。乙女姉さんにわりとサラッとした文章の手紙を書いています。淡白なところ、ええかっこしいなところ、いろんな顔が手紙に表れています。わりと手紙が残っているせいもありますけど。
山崎 筆まめなんですよね。
鈴ノ木 ただ小説や漫画の主人公は、サラッとした性格が前面に出ると物語が進まなくなって困ります。歴史ものは基本的にロマンですから、脚色はあるものです。坂本龍馬に会った人はもう生きていませんから想像で補うしかないですね。
山崎 小説や漫画の竜馬も単純な熱血漢じゃなくて、計算高い面もありますよね。
鈴ノ木 確かに、すごくしたたか。他人に対する洞察力も深い。そこが竜馬の人間力ですからね。頭はものすごくいいわけですから、したたかさも含めて僕は好きです。
山崎 ピュアなのに、計算高くもある。この矛盾こそが鈴ノ木版竜馬の人間臭さであり、魅力なんですね。
── 最新の15巻では、脱藩後の竜馬が京都にいます。新選組も登場していますね。
鈴ノ木 僕は新選組も好きなので、これから竜馬との絡みをどう描いていこうかとワクワクしながら進めています。『お~い竜馬!』の小山ゆう先生は沖田総司と絡めていったんですけど、司馬先生の『竜馬がゆく』では、千葉道場の門下生で竜馬と縁がある藤堂平助と絡めています。そういったつながりの部分を描いていくのが楽しみです。
山崎 幕末に活躍した人たちは、調べていくうちに「実はつながっていた!」と発見することがありますね。点と点がつながって線になるような。今後の展開がすごく楽しみです。
鈴ノ木 今日は山崎さんのような深く読んでくださる方とお話ができてうれしかったです。明日からまた頑張れそうな気がします。









