又吉直樹さん6年ぶりの長編小説『生きとるわ』刊行記念「又吉直樹を唸らせろ!『生きとるわ』レビューコンテスト」では、本作をお読みいただいた感想文を募集。又吉直樹さんが自ら選考を行い、最優秀賞に選ばれた作品には宛名入りサイン本、オリジナルブックカバーと共にご本人からお返事が...ということで話題になっておりました。
締め切りまでに、皆さまから190通を超える熱いレビューをいただきました。有難うございました!又吉さんが一つ一つのレビューと向き合った選考の結果、最優秀賞3作、優秀賞5作、佳作10作が決定いたしました。さらになんと、優秀賞に選ばれた方にも、予定していた賞品に加え又吉さんからのコメントをいただけることになりました。
ついに本日、コンテストの結果を発表します!
本記事では【佳作】に選ばれた10作を掲載!
・最優秀賞(3作)の発表記事は こちら>>
・優秀賞(5作)の発表記事は こちら>>
・受賞作の一覧はこちら>>
👑佳作 あい(45歳)
ダメ男の巣窟だった。
つるんで、飲んで、わちゃわちゃしてるだけ。私の同期男子たちも同じようなものだ。なんなの?
しかし、この小説を読んですこしわかった気がする。
何度ケンカしたって別れないし、離れない。キズつけばキズつくほど、キズをなめ合えばなめ合うほど、キズナが深まる謎の世界線。横井は頭おかしいヤツなのに、岡田は何度裏切られてもあきらめず、楽しんでいる。ばかなの?
終わりのないロールプレイングゲーム。彼らは過去のたそがれと同じ地点にとどまっていたいのだろう。こんな悲惨な世の中で、自分だけが進化してしまったら悲しすぎるから、現実逃避しているのだろう。成長を拒んだ無限ループをぐじぐじ回遊しながら、永遠に結論を出したくないのだろう。
気がつけば私もうっかり、横井という愛らしいサイコパス野郎に心をつかまれてしまった。客観的に見ればサイコパスだが、ふいに現れるたびに、無防備で人懐っこくて子供みたいな横井に母性本能をくすぐられた。もはやネコ科の小動物だ。
アシェラというサバンナ系のハイブリッドキャットの相場は300万円というではないか。ワイルドで悪戯好きで長生きし、飼育には生涯800万円かかるというではないか。岡田は高価なネコを手に入れ、可愛がっているつもりだったが、自分勝手で気まぐれに姿をくらます習性が手に負えなくなり、心配したり後悔したりしながら、いつだってエサを用意しながら行方を探してる。
そんな岡田の本性があらわになるのが、廣野先生の個展に向かう電車で会った老婆との小気味よいかけあい。この心温まるやりとりが刺さり、私は大阪の言葉を初めて好きになった。東京ではどう転んでもこんな会話にはならないから。どこに売っているのか解らない靴と小さな足が懐かしくて、岡田は母を思い出す。これも泣けた。
「お兄ちゃんは律儀やな。政治家になったらええわ」
老婆、見る目あると思う。
この小説で描写される会計士の仕事や結婚生活のなんと退屈そうなことか。岡田、政治家ならありじゃね?
終わりのないロールプレイングゲームに、老化が忍び寄っていることに気づき始めたダメ男たち。
生きとるだけじゃだめなんや。今こそ一歩踏み出すときなんや。
岡田レベルのワルは、巨悪にまみれたあの世界の中では可愛いもんだ。終盤、横井に対して発する「理想は持っときたい」という頼りない言葉にも、私はしびれまくったのだった。
岡田に1票!
👑佳作 駒田楓芽(22歳)
A=「自分」、B=「ある大阪人」
A「おれね、インターネット詐欺にあったことあるの。パソコン上にでかでかと詐欺広告が挟まって、『ウイルスに感染しました!直すために特殊なソフトをダウンロードする必要があります。電話番号はこちら!』ってな感じで。それで俺まんまと電話して、3万円プリペイドカード買ってきて、そこに書いてるシリアルナンバーを伝えたの。そして、もう一回買ってこいとか言われて、なんかおかしいなと思って、友達に連絡してみたら『それ詐欺じゃん』って言われて、3万失くした」
B「めっちゃ阿呆やん」
A「ちょうどその翌月にオーストラリアに留学する予定があって、留学エージェント使って語学学校用意してもらったんだけど、飛行機だけは自分で取れって言われてて。その時学生だったから格安航空券をとったの。それとった後に気づいたんだけどさ、到着予定日が学校開始日と重なってたの。格安航空だから時間変えるためにはチケットを取り直す必要があって。それで、7万円くらい損した」
B「めっちゃ阿呆やん」
A「その時に付き合ってた彼女がいたんだけど、オーストラリアにいくなら遠距離になって続ける自信がないって言われて、別れた。オーストラリア留学中もずっと好きだったし、まだ好き」
B「めっちゃ阿呆やん」
A「中学生くらいの頃、俺ゲーマーだったの。学校には行ってたけど、帰ったら寝るまでゲームしかしてなかった。それで母さんにこれ読めって渡そうとしてきた本が『火花』だったの。おれは当時なんでそんなもの読まなきゃいけないのって思ってたから、『読め』『やだ』『読め』『やだ』って押し問答になったの。そしたら『バンっ!』って、母さんが本をその場に落としたんだ。そのときの母さんが初めて見る怒った感じの目になってて。後にも先にも母さんを怒らせたのはあの時だけだな」
B「めっちゃ阿呆やん」
A「『生きとるわ』読んでるときさ、ちょうど花粉症が一番つらいときだったから、涙と鼻水ダラダラにたらしながら、病院もいかずに読み続けちゃった。ページにちょっとおれの鼻水しみこんでる」
B「めっちゃ阿呆やん」
A「金も彼女もなくして、母さん怒らせて、花粉症に苦しんだけどさ、将来もっとしょうもない阿呆もするだろうけどさ、200歳まで生きたくなったわ」
B「めっちゃ阿呆やん」
👑佳作 匿名希望(29歳)
人間関係において、一番恐ろしいことは、相手との関係性の中で自分自身を見失ってしまう事なのかもしれない。
この本を読み始めてから、多くの人が最初に、どうして主人公の岡田は友人の横井に500万円もの大金を貸してしまったのだろうと考えるだろう。誰しもが浮かべるこの疑問の中に高校時代から現在に至るまでの2人の関係性が凝縮されていた。
誰かと関係を築いていく際に、親しくなればなるほど、その相手への想いが行き過ぎてしまう事はないだろうか。このような、人との距離感に私はいつも悩まされ続けている。この想いの厄介な所は、暴走してしまうと、頼まれてもいないのに、より深く相手のことを分かろうとしすぎてしまう所だ。自分の方がその相手自身よりも、相手の事を理解しているという所までいってしまうと、もはや手遅れなのかもしれない。その時点で相手だけでなく、自分自身も見失ってしまっている可能性がある。
この本は、主人公である岡田自身が語り手だというのに、なかなか岡田がどのような人物なのか分からない所がとても魅力的だった。気を抜くと岡田に置いていかれてしまうので、岡田の姿を見失わないように常に探しながら読んでいた。
私が特に好きだったのは、所々に出てくる、岡田とその妻である有希との二人きりの場面だ。高校時代は隣り合わせでブランコを漕いでいたのに、現在は妻の有希だけがブランコを漕いでいる。いつまでも並んでブランコを漕いでいられたら岡田の運命は変わったのだろうか。私はブランコを漕ぐように、これからも読書していきたいと思った。
「生きとるわ」というタイトルから既にとても面白いのだが、読んでいる最中に何度、面白すぎると思ったことか分からない。息苦しさは確かにずっとそこにあるのに、軽快な会話につい笑ってしまう。そして、いつの間にか”人間”についてのたくさんの事を考えている。私はスケッチブック4ページ分も考えてしまった。それくらい、本当に面白くて切なくて素敵な小説だった。
👑佳作 京加(26歳)
朝、起きる。顔を洗う。身支度を整える。朝食を食べる。電車に乗って出勤する。仕事を終えて帰宅する。夜ご飯を食べる。お風呂に入り、眠る。これだけで十分に生きていると感じる。毎日起きて、眠るまでの活動がどうであれ、死んでいないということは生きていると言えると思う。しかし私は、穏やかな日々を穏やかに過ごすことよりも、何か課題に向き合ったり、傷ついたり、良くないことが起こった時の方が、無性に生きていることを実感する。『生きとるわ』は読んでいて、正直しんどくて何度も本を閉じた。読み終わらないのではないかと思った。でもそのしんどさと同じくらい、主人公が「生きているな」と強く感じることができた。登場人物にイライラした。どうか良い方向に向かってくれと祈りながら読んだ。どうにもならなすぎるだろうと、フィクションなのに本気で絶望した。なんて物語を生み出したのだと、又吉直樹が怖くなった。でも多分、これがフィクションだと言い切れないから、本気で絶望したのだろうと思う。リアル過ぎて苦しくなる、化け物みたいな小説が容赦なく読んだものを追い込む。きっとこれを読んだ人は皆、満遍なく絶望すると思う。それでも、又吉直樹はお笑い芸人だ。こんなしんどい物語なのに、時にコントの様に軽快に笑わせてくる。その笑いが一縷の望みとなって登場人物のみならず、読者を救った。訳が分からない。色んな感情が湧き出てきて、読むのに疲れた。それでも最後のオチを見届けた時、私はこれを読んで良かったと思った。『生きとるわ』を読まずに死ぬことがなくて良かったと思った。一応今のところ、何か事件や事故に巻き込まれなければ死ぬ予定はない。明日も起きて、会社に向かうのだ。それでもこれを読んでいる期間は死んだ者の様な顔をしているだろう。誰かに「顔、死んでますよ」とふざけたことをつっこまれたら、関西人でなくとも「生きとるわ」と返そう。私たちは無性に生きているのだから。
👑佳作 深渡瀬 かほり(34歳)
主人公は、友人の横井に500万円を貸したことで人生がめちゃくちゃになってしまう公認会計士の岡田。これまで芸人や劇作家といった表現者ばかり描いてきた又吉さんが、初めて物語の中心に一般の職業人を据えたわけだが、私はこの作品にこそもっとも「芸人・又吉直樹」が溢れていると感じた。
とにかく、隙あらば笑わせようという執念がえげつない。深刻な話のはずなのに、横井の父が突然歌い出すシーンや横井がきつねうどんにちゃっかり月見をトッピングするくだり、岡田とタクシー運転手の喧嘩など、読んでいて何度も吹き出してしまった。学園祭で上映した映画のクレジットについて顧問に説明するお通夜のような場面にさえ、広瀬が変なタイミングで泣いていたとか、頼むからおとん死んどいてくれと願ったとか、抜かりなくボケをねじ込んでくる。女にだらしなく最終的に犯罪にまで手を染める岡田の下の名前は、よりによって「善人」。精神の回復を報告しているはずの大倉の手紙に書かれた「アヌンナキです。」には、誰もが「全然あかんやん!」と突っ込んだことだろう。
なんだか長ーいコントを見ているような感覚だった。岡田が横井に貸した本当の額を聞かされた有希が「めっちゃ阿呆やん」だけをひたすら繰り返すのも、まさに芸人さんのリズム。コントの場合、表情や間、声のトーンなど様々な要素を駆使して笑いを生み出すことができるが、それを文字だけでやってのけるセンスはもうさすがとしか言いようがない。以前又吉さんが、自身が部長を務める第一芸人文芸部の番組内で「芸人がやるコント・漫才・ギャグ・大喜利・トークといった輪の中に文芸もおさまると思う」と部活を立ち上げた理由についてお話しされていたが、その意味がよくわかった。
笑いの力に頼って雑な文章で妥協するわけでも、文章のクオリティで笑いの弱さをごまかすわけでもない。圧倒的筆力で抜群のユーモアを描き出したこの物語は、間違いなく又吉さんの最高傑作だ。
👑佳作 さくらえみ(34歳)
本には必ず神様がおるやん?
「生きとるわ」の神様な、めっちゃ優しいねん。
この物語に出てくる人らな、ほんまに救いのない人ばっかやねん。どこか間違っとる。
でもな、みんな正しい気もすんねん。人を騙しまくるやつ、陰謀論にのめり込むやつ、最低を極めていく主人公も、ふっと、正しいこと言う瞬間があんねん。
救われへん部分と、至極真っ当な部分を併せ持ってる人らが、それぞれの理論で、懸命に生きとる話やねんな。心底嫌なやつあんま出てこんねん。なんか、久々に会った友達がこうなっててもおかしくはないわ、みたいな感じ。
だからかな。気がつくと読者は物語の中にいてるんよ。のめり込むとか、そういうのよりもっと内部に行けるんやで。本の中に自分の魂がごっそり移動できる。
こういう本に会いたくて、読書してるんやって思うことない? 私にとってこの本は、そういう本やねん。
あとなあ、文章が綺麗。研ぎ澄まされとる。なんでこんなに美しい文章が書けるんやろな。文が美しすぎるって理由で何回か泣いたわ。
もう、無限に読みたくなる。残り三十ページぐらいになったら、寂しくて読むの止めようかと思ったもんな。読んだけど。最後までどうなるかわからへんかったからね。
最後まで読んでな、この本の神様はほんと優しいなって思った。
主人公な、最後、地獄の底におんねん。もし他の神様やったら、主人公は崖とかから飛び降りてたかもわからん。
でもな、この本の神様らしいと思ったよ。主人公、地獄の底にいるはずやのに、最後まで楽しそうやったのよ。八方塞がりなはずなのに、なんか呑気に生きてんねん。
きっとこれからも、この主人公はなんとか生きていけるんやろなって思えたら、笑えてな。笑えないのにな。晴れやかやねん。
この本の神様は弱い私らに優しいなって思ったんよ。弱い私らを祝福してくれとるというか、弱いけど懸命に生きてる今を肯定する勇気をくれるというか。弱者の頑張りを認めてくれんねん。世の中は認めてくれへんやん? 世の中では「負け」「失敗」って片付けられる必死の叫び、我慢、苦しさを「勝ってたよ」「頑張ってるよ」って言ってくれる。
だから私な、この本の神様、又吉直樹がむっちゃ好きやねん。
まだ読んでないなら、はよ読んでや。
👑佳作 匿名希望(58歳)
私は58歳、娘も息子もいて孫一人を持つおばあちゃん。生きとるわを読んでいると、岡田君や有希さんや横井君の母の気持ちになったり、山下さんの気持ちになったりで切なくて苦しくて。横井と岡田ならどちらの母のほうがまだましだろうかとか、それにしても有希は良い娘過ぎる等。岡田が借金の詳細を有希さんに打ち明けている時何度も「めっちゃ阿保やん」と言う所で激しく同意しました。でも私も岡田気質が入ってて、うっすら横井なのが息子です。やれ強豪クラブチームに入りたい、塾に行きたい、大学は独り暮らしがいいなど、やりたいと言うからその度に信じて大金を払ってきたのに途中でやめたくなるのはなんでなん? とつい語尾が又吉作品に影響されますが。岡田は両親がもういないから友達が家族のようで見捨てる事が出来ないんだなと思いました。優しさって難しい。スナックワルツのママのようにビシッと言えたら良いのに。私は小さな店を経営していますが従業員にネコババされた事もあります。好い人に見えても人間て本当に怖い。本当に好い人って世の中にどのくらいいるんでしょうね。皆一瞬でどちらにも転びそうにしながら危うく生きているんですね。それで都市伝説やスピリチュアルにはまるんです。大好きで毎日スピ動画見てます。まだ人の金までは手を出していないので私はセーフ。皆さん平凡が一番、慎ましく生きて行きましょうね
👑佳作 あやみ(20歳)
私は何故か小説を開きながら口角をあげてニヤついている。お洒落なロイヤルミルクティなんかを目の前にしているのに、だ。小説でこんなになるものだろうか。がっつり笑ってしまった。こんなこと滅多にない。漫才じゃんか。
笑いを貰えることは期待以上だった。
そもそも私はこの本を読む前、何を期待していたのか。
タイトルは『生きとるわ』。
関西弁を話したことがないから、私的には「生きてるわ」ということになるが、それにしても、今のところ人生でこれを声に出したことはない。このセリフは相当な自信がないと言えない言葉であるよなとまず題名を眺めて思った。何をもって私が生きていると証明できるのだろうか。仮に証明できなくても、それを堂々叫ぶことは今の私にはできない気がする。
「一体このセリフはどこから生まれた?」
私は「生きとるわ」とどこかで言う運命になるであろう、この本の中の誰かにその答えを聞きたくて、表紙を開いた。「生きとるわ」という力強い言葉と燃えるような赤い紙が私を迎えた。
本を閉じた。
本の中では誰も「生きとるわ」と言ってくれなかった。代わりに私が閉じた本に向かって「わー横井、生きとるわー」と言わされた。自信がどうとかこうとかいう問題ではなかった。叫ぶという行為でもなかった。笑いとため息交じりの「生きとるわ」。本当にどうしようもない人生になっても、それでも生きていく。なんだかんだ生きている、ということ。それでもいいのかも知れないと思わせてくれる言葉だった。
私はこの本を読んで、必死で生きていると時に盲目的になってしまうこともあるが、それでも何とか立って、その結果を時々俯瞰的に笑って捉えていくという視点を得られた気がする。この先苦しい夜が何回訪れるかわからないけど、それでも何とか立って、「うわーこんなんでもまだ生きとるわ」と関西弁で自分を笑ってあげたい。
👑佳作 川嶋さん(52歳)
横井腹立つわ、と怒りながら読み進めていた。借金と嘘で渡り歩く横井に。普段の自分だったら、こんな人間とは一線を引く。ところが途中から一線が引けなくなってきた。それどころか、横井の一言に吹き出してしまった。追い込まれた岡田が、横井に500万円の返済をせまるまじめな長いメールへの返信。ただ一言、「ごめん、無理!」もう、笑った。破滅的で正しく理想的な生き方じゃないのに、なんでこんなにおもしろくて受け容れてしまうのか。気になって何度も何度も読み返していたら、こういうとこが好きなんやな、という場面がつぎつぎと立ち上がってきた。
高校一年の時、岡田が密かに憧れていた野球部の幼馴染が命を絶った。学校の対応や周囲の会話は聞くに堪えないもので、岡田は激しく怒り反抗する。そんな岡田のそばにずっと横井がいて、「俺も覚悟を決めるわ」と上級生の呼び出しに一緒についていく。そんな横井のお節介さが好きだ。それから、名前だけ顧問のやる気なさそうな美術教師・廣野先生。権威を振りかざす教頭とは反対側にいて、岡田たちを対等に扱ってくれる。あと、スナックで缶ビールを飲んでいる定ちゃん。阪神ファンでその日その日をささやかに楽しんでいる定ちゃんからも、横井は借金していた。「こいつは、終わってる。」と思う岡田だが、定ちゃんは「おう、よっこんやんか。元気やったか?」と笑顔を向け、借金の2万は黒い上等な傘を貸してくれたお礼やと言ってしまえる。そして、そんな定ちゃんに借金した横井を「ふざけんな、こら。」と怒鳴り散らす、スナックのママも好きだ。
一線が引けないのもしょうがない。人間はおもしろい。横井ほど屑な人でも、やさしいところやおもしろいところを併せ持っている。自分自身もそうだと振り返る。自分の中にも屑の部分はいっぱいあるし、誰かの屑な言動を笑うことだってある。誰でも間違う。阪神が日本一の優勝に輝く日の夜、「だって、間違わへん奴ってしんどいやん。」と真剣に言う横井の言葉が、すとんと私の胸に落ちた。
それにしても、私は主人公の名前に引っかかる。この小説の舞台は大阪。2023年に阪神がセ・リーグの「アレ」を果たした日に始まり、クライマックスシリーズで「アレのアレ」を成し遂げる日に終わる。だから岡田といえば、阪神の「アレ」で胴上げされ、流行語大賞を生み出した男でもある。だが岡田は一度も「今日はアレやな」とか言わない。岡田、そういうとこやぞ。
👑佳作 たろう(24歳)
NSCの一期上の先輩に又吉さんが本を出すから読めと勧められ「生きとるわ」を購読しました。大阪が舞台でミナミのスナックから始まる物語。大阪生まれ大阪育ちの僕としては情景が思い浮かべやすくペラペラ読めました。セリフはもちろん、語りの部分もコテコテの関西弁で可笑しくて楽しく読みやすかったです。
語りの部分では主人公岡田の心の声が書かれているが、繊細で、頭の回転が速く、何事にも達観しているように見える。屑の横井とは高校時代に出会い、岡田をはじめ周りが騙され始めます。学生時代、学校を牛耳ってる怖い先輩に岡田と横井は呼び出されボコボコにされるが、そのあと横井はケロッとしていた。彼のさっぱりしている部分に岡田はどこか魅力、憧れを感じていたのではないかと思いました。その後、大倉、広瀬、横井、岡田の仲良し4人組が描かれている。4人組になると仲間内でアタリがきつい奴やそれを宥める奴などグループ内の役割が描かれており、高校時代を思い出し懐かしく感じました。
文化祭で披露する映画製作費を盗むところから始まる横井の借り入れ展開がみるみる進む。彼の感情豊かな表現力により周りからも金を手に入れる横井に、呆れながらも感心してしまいました。恋人がとぎれない横井の歴代の恋人たちも横井に魅了されていたのではないかと感じました。その歴代の恋人たちを奪ってしまう岡田は横井に負い目を感じながら、困っている横井に金を貸して罪悪感を薄めてる風に見えました。
憧れや負い目がこんなにも人を堕落させるのかと怖く感じました。嫌い切れない人物特有の魅力の一つに「天真爛漫」が要素にあると思います。
岡田は嫁に逃げられそうになり膨らんだ横井の借金を取り立てに行こうと丁寧にメールを送った後の横井からの返信に思わず声をだして笑ってしまいました。ほんまにしばいたりたい。
少し気になった点は、学生時代自分たちで制作した映画の導入部分です。又吉さんなりの読者への伝え方だったのかもしれませんが、僕には少し難しかったので繰り返し読んでみようと思います。
この本を読み関西弁の面白さを再確認しました。大阪出身の方、関西弁が好きな方必読です。









