書評

カオスの広告、カオスのメディア

文: 松原 隆一郎 (東京大学大学院教授)

『BUZZ革命――売れない時代はクチコミで売れ』 (井上理 著)

  「米デルがツイッターを活用してアウトレットパソコンを売りさばき、300万ドルを売り上げた」といったニュースが、連日ネットを賑わしている。当然、日本の各企業もツイッターに自社専用メディアを設け、フォロワーの獲得に乗り出している。しかしフォロワー数がなかなか伸びないのが現状。それに対し「ツイッター部長」は、たった一人で九ヶ月の間に二万四千人以上のフォロワーを獲得した。

 〇九年末、NHKで放映中の紅白の画面に登場したレミオロメンの「粉雪」。曲が「こなーゆきー」と盛り上がるサビにさしかかると、「ツイッター部長」はキーボードをすかさず叩いた。

 「かとぉぉぉぉぉきちぃぃぃぃ」

 サビのたびに繰り返される親父ギャグに「吹いたw」「これが最優秀歌唱w」「加ト吉に惚れましたww」というコメントが続く。「フォローしました!」とくれば「ありカトキチ」と受け、「美味しいです」と褒められれば「おそれいりこだし」と返す。こうしたつぶやきが、予算なき広報部長の日課だ。消費者とのゆるいコミュニケーションを重ねるほど、優良顧客を獲得できる。その思いがつぶやきの原動力だという。

 百万人がはまっていると言われる携帯ゲーム「コロプラ」(コロニーな生活☆PLUS)は、現実世界で移動しつつレアなお土産を購入するというゲームである。その結果、不調に苦しんでいた有田焼の老舗に、突如として若者客が殺到した。若者はマスマーケティングには乗らないが、好きなことには行動力を発揮するという事例である。

 ユニクロの海外広報の尖兵となっているサイトは「UNIQLOCK」。〇八年には世界三大広告賞のグランプリを総なめにした。パリ旗艦店の出店時には、街中のいたるところに屋外・交通広告を貼りだし、合わせて特設サイトを開設、情報を集約した。日本での創業六十周年セールも、新聞に全面広告を掲載した翌日早朝六時に開店、超目玉商品とともに全国四百店に開店前に並んだ人にはあんパンを配り、各店舗の長い列の様子をツイッターで配信した。「見た一瞬で直感的に買う」というIT時代の消費者心理を読み込んだ広報戦略である。

 もちろん、こうした広報戦略に危惧の念を抱く関係者も多い。会社の総意を確認せず一個人が私見でつぶやいて独断専行とはならないのか。問題が起きたら、誰が責任を取るのか。実際、“炎上”事件も起きている。旧メディア側に言わせれば、プロの熟考を経ない広報や報道は危険、ということになろう。

 それにもかかわらず、反射的に対応しうる広報が消費者から求められているのが現実なのだ。反射神経を誇る広報のプロが、BUZZ戦争を勝ち抜いてゆくのだろう。本書はそう示唆している。

BUZZ革命
井上 理・著

定価:1300円(税込) 発売日:2010年08月26日

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