- 2006.04.20
- 書評
グーグル『革命』は正夢か悪夢か
文:佐々木 俊尚 (ジャーナリスト)
『既存のビジネスを破壊する グーグル Google』 (佐々木俊尚 著)
ジャンル :
#政治・経済・ビジネス
梅田望夫さんの『ウェブ進化論』(ちくま新書)がベストセラーになり、インターネットの最先端に多くの人が関心を持つようになっている。この本を読んだ多くの人は、「海の向こうのシリコンバレーではこんなことが起きているのか」とびっくりしているのではないか。だが『ウェブ進化論』で語られているような「本質的変化」は、実は日本のさえない地方の企業から始まりつつある。
私がこの『グーグル Google――既存のビジネスを破壊する』で描こうとしたのは、そうした地方の物語である。地方のさえない(と思われていた)零細企業と、グーグルという世界最先端のインターネット企業がどう結びついているのか。そこにある「本質的変化」を描き出そうと考えたのだ。
少し歴史を振り返ってみよう。
一九九〇年代末、「ネットバブル」と呼ばれる狂騒があった。
もっとも、それを「バブル」と呼んだのは後のことであって、当時のインターネット業界は自分たちのビジネスがバブルであるとはまったく思っていなかった。マスコミや有識者たちも「IT革命」「インターネットが流通を変える」といった威勢の良い題目をさかんに掲げて、経済・社会の大変革をうたいあげたのである。
しかし実のところ、その当時の「革命」は幻想でしかなかった。
インターネットの利用者は一九九九年当時、二千七百万人程度で、国民全体から見れば少数派だった。ブロードバンドという言葉もまだ出たばかりで、使っている人はほんのわずかだった。大半は、ネットを利用しようと考えるたびにアナログモデムから「ピーガガガ」と電話回線経由でプロバイダに接続し、高い電話料金、プロバイダ料金を支払っていたのである。
そんな貧弱なインフラしかなかったのに、世の中が変わるわけがない。
だからこの当時、消費者向けのインターネットサービスに乗り出したベンチャー企業の多くは失敗している。たとえば東証マザーズ上場第一号だったリキッドオーディオ・ジャパンなどはいい例で、秀逸な音楽配信システムを持ってはいたものの、売上げはほとんど出ていなかった。それなのに立派なオフィスを構え、社員をたくさん雇い、挙げ句に社内がおかしくなり、最後は前社長が暴行・逮捕監禁の疑いで逮捕されるという事態に陥ってしまったのである。
振り返ってみれば、ネットバブル崩壊後も生き残り、後に「勝ち組」と呼ばれるようになったネットベンチャー――たとえば楽天やサイバーエージェント、そして強制捜査を受けたライブドアなどは、その時代に法人向けに特化した事業展開を行っていた。だからこそ勝ち残ることができたのである。