書評

グーグル『革命』は正夢か悪夢か

文: 佐々木 俊尚 (ジャーナリスト)

『既存のビジネスを破壊する グーグル Google』 (佐々木俊尚 著)

 正直に言えば、私自身もネットバブルに幻惑されて道を踏み外したひとりだった。

 私は当時、毎日新聞社会部の記者だった。だがインターネットの出現を目の前にして、「こんな古い会社で汲々としていられない」と焦燥感に駆られるようになる。ハイエナのようにネタを嗅ぎまわる事件取材に疲れ、記者としての将来に悲観していたということもあった。そうやって悩んだ挙げ句、退社してしまったのである。一九九九年秋、三十八歳だった。同僚からは「馬鹿じゃないの」と嘲笑され、「報道の一線からこそこそ退場した」と受け止められた。

 そうやって飛び込んでみた新しいインターネットの世界だったが、しかし二〇〇〇年に入るとネットバブルはあっさりと弾け、インターネット業界は暗雲に呑み込まれてしまう。取材に行っても明るい話題は少なく、「出資を得られない」「儲からない」といった愚痴ばかりを聞かされた。

 幻想は崩壊したのである。投資家も経済界もインターネットの実態を認識するようになり、「こんなものじゃ、リアルなビジネスにならない」ということがばれてしまったのだ。化けの皮が剥がれたというべきだろうか。

 しかし――。

 二〇〇四年ごろから、状況は再び劇的に変わってきた。二〇〇一年ごろから始まったブロードバンドの波が社会を覆うようになり、ネットの利用者数も人口の過半数を超えた。多くの人が、日常の欠かせない道具としてインターネットを利用するようになり、消費市場の一角をネット通販が占めるようになった。

 そうした中で一般社会に対しても大きな存在感を見せるようになってきたのが、ライブドアや楽天、サイバーエージェント、USENといった企業群だった。おそらく「インターネット」「ネット企業」というと、多くの人はそうした企業を思い浮かべるに違いない。「突出した若い感覚の経営者が、古い体制に挑戦する」というイメージだ。

 もちろんそのイメージは、決して間違いではない。だがブロードバンド化、インターネット化による社会・経済の「本質的変化」は、実はもっと別のところで起き始めている。

 冒頭に書いたように、「本質的変化」は、実は辺境から始まっている。大企業ではなく、日本の中心でもなく、先端テクノロジーの世界でもない。さえない地方の零細企業が、グーグルというアメリカから入ってきた強力な武器を手にすることによって、巨大企業を凌駕する力を持ちつつあるのだ。

 そしてそのパワーは、人間社会のあり方さえを変えてしまう可能性を秘めている。その可能性は決して薔薇色一色に染められているわけでもなく、さまざまな危険性さえはらんでいる。

 その正夢と悪夢は、いったいどのようなものなのか――それが最終的に、この本の主題となったのだ。

既存のビジネスを破壊する グーグル Google
佐々木俊尚・著

定価:本体760円+税 発売日:2006年04月20日

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